「あのう…」

流れる髪には見覚えがある。

「「あれ?」」

こちらに見覚えがあったのだから向こうもこちらを見覚えていたのだろう。
見事疑問は重なった。

洞窟の前で困っていたそいつは確かにジャドで一度逢っていて、深刻な事情を抱えているようだった。
ジャドでは詳しく聞けなかった『事情』を聞いてみたらやっぱりそうで、だから光の司祭を訪ねに行くのだと真剣な眼差しで俺に話す。俺も同じ…と言うか似たようなものだったからフェアリーの力を借りてそいつも連れてウェンデルへ訪ねた。
そのときまではそいつの事なんてただウェンデルへ行き、光の司祭に相談を求めるまでのただの『連れ』だと思っていたのに、フェアリーが光の司祭の前で彼女の『事情』をタネに仲間に引き込んだ、それに見事つられて彼女も俺とフェアリーについていく事になった。

おかげ様で彼女とは最後まで一緒にいられる羽目になる。

最後まで一緒に戦える羽目になる。


   最初から…


            最後まで…



ジャドで一度逢っていたにもかかわらず、そのときあの洞窟の前での出会いが俺たちにとって『出逢い』だった。


01.ただ、偶然かもしれなかったあの瞬間


確かに俺たちはそこで出逢って恋をしていた。






02.あの日から浮かぶのはいつも決まって


――アナタの顔…

あの日出逢った青い目をした赤髪の鬼。
年は私とあまり変わらない様にも見えた、一体どうして生きていたのだろうと興味を持ったのはその所為かもしれないし、あの青い目がとても綺麗だったからかもしれない。
とにかく惹かれる要素は十分にあった。
綺麗、と言っても白人によくある青い目とは全く違う、例えれば夜の迫った夕暮れの深い空や朝を迎える直前の薄暗い青。綺麗な青だと思った。


最初はもちろん警戒した、あんな姿をしているのだから当たり前だろう、後で聞けば私の半身も警戒したそうだ。
しかし彼は優しく傷を癒して私に接した。それが私にとってとても安心できたし意外だった。鬼とは本来悪い化け物だとしか考えていなかったからだ。
あの時の疵はもうほとんど治りかけている、彼の治癒能力のお陰だがこの疵を見るたびに彼を…あの時の感情を思い出す。


 できるならもう一度逢いたい。


 あの山に鬼が出るという噂は聞かないのでおそらくどこからかやってきたのだろう、またどこかへ行ってしまわないうちにもう一度逢いたかった。
 逢う前にどこかへ行ってしまわないように…
 あの日逢ったのは一度きりだというのに今でも鮮明にあの顔を覚えている、それだけ印象の深い顔立ちだったのだろうか?良くわからないが、私にとってはそうだったのだろう。


 逢いたい 

   逢いに行きたい

     あの鬼に――…


 そして聞こう。



 どうしてあの日以来アナタの顔が浮かぶのですか?






03.理由なんていりませんただ好きなんです

「は…?」

フラミーの背に向かって叫んでしまった、気合以外で大声で叫ぶなんてどのくらいぶりなのだろう?そんな事を考えて今言ってしまった言葉から逃避しようとする。逃避したいという事はとても後悔しているのだ、だってあの人はきっと眉根を寄せて険しい表情をしているに違いない、人生の中であの人と一緒に旅をした時間はごく僅かでしかないけれど、それくらい私にもわかる。

フラミーの背に乗ったあの人に向かって言ってしまった言葉。

言わずにこの胸の内にとどめておこうと誓った言葉。

どうして口にして…



彼を引き止めてしまったのだろう?



幸いにもこの場、この空間にいる人間は私と彼だけだった、誰かに聞かれたら恥ずかしくてたまらない、安心した事はそれだけで、残りは全部後悔だった。
「なんて言った?」
やっぱり相変わらずぶっきらぼうな口調が空から落ちてくる、思わず見上げるとその顔は僅かながらも赤く染まっていた。

「…すみません…」

突然わけもわからずに言われて向こうは迷惑だっただろう、そんな気持ちが先立って私は思わず彼に向かって誤る。彼の頬が赤く染まっている事なんてまるで無視している自分がいる。ねぇ、それこそ注目すべき点なんじゃ…?そんな事を思う別の私がいた。

もう、彼のその先の言葉は期待していなかった。なにが返ってきても良いと思っていた。

「おい!」

空からまた声が降ってくる、と同時に彼も降って来る、フラミーから飛び降りたのだ、それまで彼だけを背に乗せていたフラミーは戸惑い私達の上空を旋回している。

「『好き』だのなんだのに理由ってのがあるのは本当か?」

「え?」

今度は私が彼に言葉を聞き返す。
彼は普段の彼ならきっと目を逸らしながら言うであろう言葉を私の目を真っ直ぐに見て応える。


「理由があるんなら俺もお前を好きな理由を考えなくちゃならねぇ」


私は彼にもう一度その言葉を聞き返すところだった。






遠くに見えるのはサラサラと流れる真っ赤な髪。あの髪をなびかせて今日も場内を走り回っているのだろう、そして側近等を困らせているのだろう、そんな彼女の姿がすぐに思い浮かぶ。
少しだけ苦笑しながら踵を返してその髪を視界から遠ざける。あの姿とも今日が最後なのだ。
もしも私にも力があったのならもっと近くで彼女の姿を見る事が出来たのだろうか?

いつか彼女の力になりたいと願った。

いつか彼女のそばへ行きたいと願った。

だがその『いつか』は訪れないと判った…

力になれない事にいたたまれなくなった私はこの国を去ることにした、どの道辛いのは私だけなのだ、勝手に旅に出ても構わないだろう。彼女のそばにいられない事は、彼女のそばに自分以外の誰かがいるのを見るのはたくさんだ。逃げても良いだろうか?彼女のいる場所から。


白い大地が黒く染まる頃になり、私は再び昼間彼女がいた場所を見上げる、あの場所は彼女のいつもの逃走ルート
、ここからいつも見上げていた。
「……」
ふと、見上げた先に昼間の赤い髪が見えた。幻だろうか?
…いや、幻じゃない。あきらかに彼女がそこにいる、彼女は私に気づかず夜空を見上げている、最後のこの瞬間に彼女の姿を見られた事は…
彼女は夜空を見上げていたが、ふと両腕に顔をうずめる。…――また、泣いているのだろうか――? 

本当は言いたくて仕方がないたったの一言。

きみは王女で私は…

だから…


04.誰にもいえない、こんなことは。そう、あなたにも





…だから静かに旅立とう…




顔を上げた彼女が後姿の私を見つけたと知ったのはもっと…ずっと後だった…








「っの馬鹿!!」
モンスターとバトル中だった、私が少し気を乱した一瞬にモンスターが襲い掛かってきたのだ、それを防いだのは姫であるあいつだった。あいつはモンスターの攻撃をその身に受けた、文字通り身を挺したのだ。
…私の罵る言葉と共に。


「…馬鹿はあんだだ…騎士は…あんたを守るのは私なのに…」
モンスターを全て倒してから彼の治療に入る、次の町まで今日中には着くだろうが一応応急処置はしておいた方が良い、処置は彼のほうが得意だが、その彼がけが人なので私は覚束ない手つきでしかし彼に助言をもらいながら処置を続ける。
彼に言われた『馬鹿』にぶつぶつ文句を言い否定しながら。


珠魅のしきたりで私は彼の騎士となった、騎士になったからには姫である彼を守らなくてはならない、でも私はまだそこまで至らないのだ、よく彼にフォローしてもらっていたが今日ほどひどいものは初めてだった。
彼を守るのは私の役目だ、なのに実際私は彼に守られている。それで良いのか?


「なんで庇ったの?戦う力ないのに…」
実際には少しあるらしいがあえて使っていないようだ、本人曰く使えない理由があるらしいがどこまで本当なのかは不明だ。
「…守りたかったから…」
彼から聞こえてきたのは意外な言葉。私は思わず聞き返す。
「は?もう一回」
「だから!お前の事を守りたかったんだよ!それじゃ不満か?!嫌なのか?!」
問い詰めたら逆切れされてしまった…そんなの…決まってる…そんなの…
「嫌な訳ないでしょ?!」
正直言うと嬉しかった、心の奥でなにかが灯った気がした。でもこんなひどい怪我は見たくない、とても痛そうだもの。苦しそうに汗を浮かべる彼を見る、見ることしかできない。


05.ねぇ。その痛みはやっぱり、くるしいですか?


私がそれを癒せたらどんなに良いのに…


癒せる力なんて私にはないのに望んでしまう…


癒せないならせめて癒す事のないよう、彼を守る事だ。



以上七月二十一〜九月六日まで拍手SS初代です。
共通テーマは「カップルを片割れの視点から」所謂一人称。


◇◆◇一言◇◆◇
1:デュラン視点。リースとの出会いvきゃvv
2:冬夏視点。無自覚な恋の芽生え、自覚はまだ程遠く。
3:リース視点。デュランとの別れ、そして恋の始まり。
4:紅蓮魔視点。アンジェラへの秘めた恋心。旅立つ前。
5:オリ珠魅カイル視点。庇ってくれたJ・Cへの決意。


お題を文章に組み込んでみました。結構楽しかったです。
デュラリーに鬼冬、ぐれアンとJカイ。



微妙な19のお題。





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