きみへ募った思いがある。


俺が『吉野』と言う人間になってから半年以上が経とうとしている、もう既に夏は過ぎて秋に差し掛かる、流れる雲も夏と言うよりはとっくに秋の雲だった。
夏休み、大切な二人を巻き込んで同好会の合宿に行ってわかった事が一つある。

それは二人の絆。

その絆は誰にも邪魔する事はできない、ずっと一緒にいた二人だからこそ割って入れない『何か』が存在する。
俺も、きっと二人の友人もあの二人の間柄を壊す事はできないのだろう。それだけ強固なのだ。
「いつから修学旅行なんですか?」
「9月後半、多分帰ったら即行で秋休み」
二人の通う学校とは違い、2期制の高校なので「秋休み」が存在する、因みに今では3期制のほうが珍しい。
4泊5日の修学旅行から帰れば秋休み、という事はほとんど勉強する機会がないと仲間内では喜び合ったが、修学旅行の2日前は期末テストだったという事を忘れていた。
「詳しい日程が決まったら教えてくださいね、ご飯の量調節しなくちゃまりませんから」
主婦のような事を口走るが、実際彼女の居候先の家事は全て彼女が担っている。
女が彼女だけだという状況がそうさせているのだろう、残る男共は彼女に家事を任せきっている。
「ああ、わかってるって」
生返事をする帰り道、今日は珍しく彼女の片割れがいない、この一瞬が何よりも大切に思える。
…別に彼女の片割れが邪魔って言う訳ではないのだけれども。
「ちゃんとお土産持ってきてくださいね」
「はいはい」

他愛の無い会話がきみへの思いを募らせる。

「それにしてもルナキャッスルですか、最近出来たばかりで話題性もありますし、かなり混むんじゃないですか?」
「うちの学年全員で行ったら更に混むだろうよ」
一学年300人以上で向かうのだ、その人数だけでも十分混雑の原因になれる。
「…ですね、おれ達は一体どこになるんでしょう?」
「まだ決まってないのか?」
「一応あなたと同じ北海道かそれとも海外かと言う噂はありますね」
肩をすくめる仕草は彼女のクセでもある、『吉野』に成り代わってから二人に再会し、そして発見した仕草がたくさんあった、これもその一つで、まるで出会えなかった時間分を取り戻すかのように二人を良く見ていたからこそ気づけたものである。


………


『たくさんの好き』に『たくさんの愛』、どちらも俺からきみへ。


でも一度に『たくさん』なんてきっと受け取れ切れないだろうから、
俺から少しづつ伝えるよ、きみときみの片割れにもわからないくらいに少しづつ、
長い時間をかけて、きみが気づかなくたって良いから…


06.たくさんの好きと、たくさんの愛を、きみに  






綺麗なところだった、花畑かもしれないし、どこかの綺麗で豪華な宮殿の中かもしれない、
ひょっとしたら凄く身近なところでそこが皆といるからとても輝いて見えたのかもしれない。
そこにはおれと大切な片割れ、大切な親友、そして両親。5人がいた。
両親と最後に合間見えたのは小学校入学の時だったが、そのときの記憶なのだろうか、全く老いる事無く変わっていなかった。そんな両親が少し遠くでおれたちを見ている、まるで保護者だ。
いや、本当に保護者なのだけれども、大抵こういうときは父親だけが遠くで見守っていて、
それとは正反対に母親はおれたちに混ざって一緒になってじゃれていた、とてもおれたちより20歳以上年上には見えない無邪気さで。
だからおれたちを見守っている父親の隣で優しそうに『母親』の表情をしているのが意外だった。
そしてそんなおれの隣にはこの世に生まれる前から隣にいてくれる大切な自分の半身、
そしておれたちを助けてくれた恩人でもある兄弟のように仲の良い親友が半身の隣に立っている、
いつもなら邪魔する所だけれど、今回ばかりは気分もいいし二人が並んで絵になっているから正直少し見ほれて二人が傍にいる事に気を許す。
だって本当に似合っていたんだ。


そこで暗闇が現れ、おれの意識は浮上した。


気がつけば薄暗いリビングだった、カーテンの閉まっていない窓から見える景色は真っ暗で今の時間を知らせる、おれはその状況にあわてて起き上がりまわりを見舞わす。
確か今日は宿題も少ないしこの家の主も外出していたので三人で鍋でも囲おうといつもの夕食と言うよりはほぼ飲み会に近いような雰囲気の夕食だった、
そういえばいつの間にか少々アルコールさえも入ってしまっていた気もする、
おそらくおれが一番先だかに眠ってしまったのだろう。明らかに自分の半身がかけてくれただろう毛布を引き寄せると微かに抵抗があった、その先を良く見ればそこにいたのは半身に親友だった。

あの夢のように二人で並んで先ほどまでのおれと同じく眠っている。


少しだけ疎外感にも似た恐怖を覚えた、あの夢よりもずっと現実的だったからだ。


おれたちは三人で手を繋いで輪を作った、その輪は今でもつながれたままだ。
もしその手を離したら、おれたちは再び繋ぐ事ができるのだろうか?
繋ぐ事ができなかったら、おれたちの関係は変わってしまうのだろうか?


首を横に振ってその考えを否定し、おれは二人へ近づく、起こさないようにちゃっかり二人の間に割り込み、毛布を二人にもかける。
おれも含めて3人部屋の真ん中に固まる格好となった、たまにはこんな風に皆と眠ろうとおれは再び襲ってきた睡魔に意識を預ける。
そのとき、最後まで離さなかった望みはたった一つだった、大抵叶う事はないけれど願わずにはいられない。




07.あともう少しだけおなじ夢を見たいな ……




そうしておれはまた深く眠りについた。







ほら、すぐそこだ、目の前、貴女の茶色い髪が夜闇に混ざっている。


08.手を伸ばせば、すぐにあなたに届く距離で …

貴女は私に背を向けて座っている、その所為で二人ともお互いの表情を見ることはできない。だから貴女が今何を望んでいるのかわからない。


私は異端だから貴女に触れれば貴女はきっと不幸になるでしょう。貴女は私の手を取り不幸になどならないと豪語したけれど、現に今、貴女はきっと不幸なのでしょう、私の触れた所為でそれが悪化した。意にそぐわぬ相手との政略結婚、あなたも周りも反対しない。私が貴女を不幸にした、あなたが私に触れたから…
私が反対してあげましょう、貴女を不幸にしてしまった原因ですから責任は取りましょう。

だから…

後ろを向かないで

肩を震わせないで

声を出して


貴女は今泣いています。私はどうしたら貴女の涙を止められるか判りません。私にはとても縁のない状況に今廻り合ってしまっているのですから対処法なんて考えもつきません。

触れればよいですか?

抱きしめればよいですか?

私の呪われたこの両手で?

それこそ貴女を不幸にしてしまうでしょう。

私に触れただけで不幸になった貴女だから。

更に…更に…更に…


でも、しかし、だが、それでも、


貴女を抱きしめたかったのです、私のこの両手で貴女に触れたかったのです。どんなに不幸といわれようともこれは私の手なのですから――…



「…なんで――…」

震える声で貴女は私の存在を確かめる、私はただ頷いた、貴女の背後にいたけれどきっと貴女なら気配で気づける事でしょう。頷いただけで私が何を伝えたかったか貴女に届くとよいのですが――…


そうして私は手を伸ばして、貴女との距離を自ら縮めたのです。




………初めて………









09.嫌い、だけど好き 嫌いだから、好き

「矛盾してるような気がしますわ…」

友人の言葉にやっぱり…?と自分でも呆れて溜息をつく、友人に言われた通り自分でも矛盾している事などわかっている。
でも確かにこう表現するのが一番しっくり来るのだ。

あたしとあいつとの関係は。

「だって…血液型占いなんて4つに区切るだけじゃない!星座占いの方が信じられるわよ!」
喧嘩の理由はコレ、単なる占いだった。
あたしはたった4通りしかない運勢なんて信じたくないのに、向こうは事もあろうにあたしの信じている星座占いの星座なんて大昔の人が星を繋いで形を決めただけの星の羅列に過ぎないと一蹴した。
その星を繋いだ所が良いって何で気づかないんだろう?
…と言ったら、向こうも『血液型は4つから更に細かく分けられるんだ』云々…とこちらには判らない難しい話をし始めたのだ。
「そこが嫌いなんですの?」
友人の言葉にうなづく、だってそうなのだ、そんな融通の利かないところが嫌い。
「…でも好き」
「埒があきませんわよ?」
呆れていてもずっとあたしの言葉…と言うより愚痴を聞いててくれる、そんな友人を誇りに思う。
この貴重である友人との出会いはあたしの従姉を通してだった、
彼女があたしと友人とを『同い年だから』と言って引き合わせてくれたのだ、
そしてそれはただいまあたし達の話題に上っている『彼』の出逢いとも同じだった。


貴女がいない今、少しでも貴女がいた事を確認しようとあたし達は互いに身を寄せ合い、絆を深めていった。



「…だってそんな所も好きだって思えるんだもん!」

あたしの言葉に友人は更に深く溜息をつく。そして彼女らしくなく勢いをつけて立ち上がった。もしかしたらとんでもない事をしでかしてくれるのかもしれない、なにしろ金持ちの考える事は良くわからないから。
…偏見だったらこの子に誤らなきゃだけど。

「なら、わたくしから彼に何とか話してみますわ」

呆れるあまり行動に入ってしまった友人を止める術や権利などあたしが持ってるはずはなく、
彼女が夫兼秘書を連れて去っていってしまうのをどうしようとおたおた見送るだけだった。


友人のその大胆不敵な行動もあってか、そんな喧嘩中の彼から電話がかかってきたのはその日の夜だった。






10.この笑顔でいつまできみをはぐらかせるのでしょうか


初めて嘘をついた…と言うのは少し違うだろう。今までもあたしは嘘をついてきた、でも顔に出てしまうのかすぐにばれてしまうのだ。
「おまえはわかりやすいなぁ」
付き合いの長いカウンセラーがそう言ってあたしをからかったのがきっかけだった、その直後にあたし自身が運んできた意識不明の男が目を覚ます、雨の中を河の近くで倒れていたからここへの通院ついでに助けてやったのだ。そいつは茶色い髪を掻き揚げて部屋にやってきたこちらへ視線を移す…その時あたしはその男を見て何を思ったのか判らない、突然思いついたのだ。
カウンセラーが先に男へ自己紹介する、そのまま続いてあたしの紹介をしようとした…

「オレは―――よろしくな」

男言葉に慣れていないってわけじゃない、あたしはカウンセラーを跳ね飛ばして男だと偽った。跳ね飛ばされたカウンセラーは何事かと目を瞬かせている、きっと後で何やってるんだって怒られるんだろう、でも一度やると決めたのだからあたしは彼のまえで『男』でいようと、嘘をつこうと決めたのだから何言われても平気だ。

『判りやすくて悪かったですね、どうせすぐに顔に出ますよ』



そんな気持ちで挑んだ嘘だった…



それが今になってこんなに苦しくなるなんて思いもよらなかったけど、ココまで来たのならやっぱり突き通すしかないんじゃない?傷つくのはあたしもだけど、きっと彼もだ。だからできるなら突き通したい、例え周りが何て言ってもそれは変わらないだろう。
時々、なんで嘘を突き通そうとよりにもよって彼に嘘をついたのかと後悔する、その解決への糸口はまだ見つからない、見つかっていたらきっと本当の事を話すだろう。
極力ばれないようにはしている、でもいつかばれても構わないとも思う、曖昧な心のままあたしは今日も彼へ笑いかける、

「よっ!――」

「相変わらずの笑顔だなぁ?」


――少年のような笑顔で――


ねぇ

この笑顔でいつまで自分をはぐらかせるのでしょうか?



以上九月六日〜十月六日までの拍手SS二代目です。
共通テーマは「カップルを片割れの視点から」所謂一人称。
そして名前は伏せて。


◇◆◇一言◇◆◇
6:吉野視点。双子の絆をわかりつつも…
7:春秋視点。知っていてもまだ甘えたい。
8:ジェイド視点。呪いの身で触れるかどうかの葛藤。
9:葉月視点。喧嘩中の惚気、ある話の裏話。
10:有視点。大好きな人への嘘。


すっごく久しぶりなキャラや脇まで引っ張り出しています。
中にはまだ登場していないのも…



微妙な19のお題。





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