初めて出逢った時も大きな人間だな、と心の中で本気でそう思った。
あの時、私はまだ幼くて、あなたはもう成長期はゆうに過ぎていた頃合で、そしてあなたは私とおそろいの真っ黒の喪服を着ていて、言った。

「――――」

それはいまじゃなんだか思い出せないけれど。



いつまでも届かない背中ができた、その彼の背中は広くて大きくて、私がすっぽり納まってしまうくらいなのだろう。
もちろん、背が小さいから届かないという訳ではなく、意味合い的に彼に追いつけないという意味で届かないと言っている。きっと届く事はないのだろう。
昔は届いて、そして追い抜く事を夢見ていた。だけど年が経つにつれてそれは無理なのだと諦められるようになった、
その途端、彼の背中を見るのは私だけと言う自負が生まれた。

そんな背中が目の前にある、私はその背中を守るのだ、私はその背中の持ち主が大切だからだ。失いたくない目指す目標だったものなのだ。

大切で大好きな彼の背中。

広くて大きな彼の背中。

私がそれに追いつく事は無いけれど、それを追い越す事なんて更に無理だけど、ずっとアナタのために見ていたい背中。



ねぇ…

11.今だけは背中を見ててあげるけど、いつかは

私を見てね?

振り返って、

両手を広げて、

私を受け入れて、


あの時私があなたを受け入れたように…いつか…










「あんた誰?」

同じ言葉を話す少女は外見のわりにぶっきらぼうにこちらに問いかけた。これが彼女の第一声だった。
「大気さん…貴女のお父さんと私の養父が知り合いなんです」
「ふうん」
10にも満たない子供に『養父』と言う言葉がわかったかは疑問だ。だが、一応彼女はそんな説明で納得してくれたらしかった。
「養父がきみと砂月君を引き取る事になったのでご挨拶に」
「あんたと一緒に暮らすの?」
「…はい、よろしくお願いします」


それが、貴女との出会いでしたね――…


そして同じ空間で10年暮らした。貴女の弟と、従兄妹たちと…同じ空気を共有しあった。
「ねぇ!私がエジソンの吐いた空気を吸ってるって本当?」
「…ええ…」
あるとき、突然貴女は私にそう問いかけた、恐らく私の部屋にある大量の本を読み漁って発見した事なのだろう。
細かく話をすると、更に貴女は目を輝かせる。
「じゃーあんたとも呼吸しあってるんだね?」
目の前でそれを言いますか…
正直貴女の考えがいちいち不思議でしょうがなかった、説明が通じてくれたのだろうかと言う気にもなる悪意ある天然的な発言だ。


きみと共通する言葉がある。

きみと共通する空気がある。

いつもそばにいるから、いつもとなりにいるから。

今この時も貴女は私の隣で眠る。

すやすやと。

永遠に目覚めないかと思う程…深く…眠る…




12.きみと共有するものは、空気とことばと、それともう一つ


いや、もう二つかもしれませんね…








13.約束をしよう、それはとてもはかないものかもしれないけど

けれど私は必ず実行してみせる。

大切な 大切な 貴方のために…



「そんなのは嘘だよ!」

「私が証明してあげる!!」

「…違うよ、私はまだ不幸じゃない」


そう言って彼の呪いを否定してきた。
石人のリカーシヴ、2箇所以上身体の一部が石でできた者の事を差別する言葉。
他の種族においても何か劣る事が少しでもあれば該当する、なのに『呪い』があるのは石人だけなのだ。
私は小さい頃から誰に教わるでもなく、それはひどい事だと、やってはいけない事だと思っていた、
だから彼にあった時、別に嫌だとは思わなかったし、呪われるなんて言語道断だ、ありえないと思っていた。
むしろこれからずっと彼の隣にいて、彼の隣でで幸せになって呪いがない事を証明してやろうと考えさえもした。


そう考える時点で私は既に彼に惹かれていたのだ、
…どうしようもない位に。


だから余計に彼を『呪われた者』にしたくなかったし、他人にもそう見られたくなかった、
彼は私を守る、だから私も彼を守る、彼が私を守るのとは別の方法で。


彼はあの時私を助けてくれた、だから本当に呪われてなんていないの、私が幸せになるには彼の隣にいられる事が第一条件なのよ。
ねぇ皆聞いてよ?差別なんて間違いだよ?


…でも誰も聞いてくれる人はいなくて…




私達は守り守られ呪いから逃げる、

逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて…

逃げた先に貴方との幸せは私にあるのでしょうか?





だから、約束をしよう。

それはとてもはかないものかもしれないけれど。








14.まだ言葉というものに怯えたままのぼくから、

伝えても良いだろうかと不安だった。
「言葉」と言うものは相手を無意識のうちに縛り付けてしまう、
貴女の気持ちがわからないぼくにとってこの「言葉」を貴女に伝えるのは躊躇われた。
だから、伝え逃したまま、貴女は僕の前から呪いによって消え去ってしまった。

貴女はぼくをどう思ってくれていたのだろうか?

ついに言えず仕舞いだった貴女への言葉がある。

ぼくは貴女の気持ちを模索しながら一人で当ても無く旅を続けた。
当てはあったのかもしれない、「貴女を探し当てる」という事、
でもそれは貴女の気持ちも知らないままで途方も無い話のようにも思えた、
途中、幾度も諦めかけたが、やはり貴女にあの「言葉」を伝えたい一心でぼくの旅は続いた。

そして願いが届いたのか、貴女に再会する事ができたのが何よりも嬉しい。

しかし、やはりあの「言葉」はなかなか伝えられなかった、
むしろもう伝えない方がいいのかもしれない、
だが、彼女はぼくに伝えてくれた。自分の気持ちを。

だからぼくも伝えよう、

まだ「言葉」に怯えたままだけれども、
怯えているだけではなにも始まらない。
貴女への気持ちも始まらない。


だから貴女に伝えよう。



「きみが好きだよ」



その時見せた貴女の笑顔。

そのお陰でぼくはもう言葉に怯える事はなくなった。








電話をした、久しぶりに、あいつの声を聞いた。

あいつの声は喧嘩直前のあのままでちっとも変わっていなかった、まぁ成長期途中の子供じゃないのだから当然なのだろうけれど。
聞きなれた声が俺の耳に届く頃には俺はなんだか今すぐ逢いに行きたいと思った。
でも俺にもあいつにも意地がある、逢うのは当分先になってしまうだろう、そう思うと受話器の向こうのアイツの声が愛しくも思えた。
俺たちは似たもの同士だからきっと向こうもそうだという事くらいわかっている。

「…やつが来た」

「…やっぱり…?」

向こうの口調からすると仲介に入ったお嬢様はあいつの言葉を無視してさっさと俺の所に来て発破をかけたらしい、
『お嬢様』との付き合いはアイツより短いが、時々大胆な行動に出てしまうという事はわかる。俺たちはそれに振り回されているのだ。

「止めようとしたんだけどね…」

受話器の向こうでアイツが溜息をつく、言葉の切り方からして精神的に止められない状況だったという事がわかる。
おそらく弱みでも握られているのだろう、いい気味だ。


…少し前に友人の甥があいつの事を話題に持ち出してきた、
俺とアイツの事は知っているからここ数ヶ月アイツの姿を見ないことにまた喧嘩したなと呆れ半分な様子であっさり言い当てられた。
「好きじゃないわけじゃないんだろ?」
「いいや、好きなもんか!」
そいつの問いに即座に否定する、子供じみた意地だとこちらも向こうもわかっただろう、こと恋愛に関しては俺とアイツはまだまだ子供なのだ。
友人の甥は深く溜息をつく、半分だった呆れが全てになってしまったのだろう。見ればわかることだった。
「あいつの事なんて…」



15.好きじゃない、なんて言っても やっぱりあいつの事が好きなんだ。

そう気づいたら自然に言葉が口から生まれた。


「今度、久しぶりに逢わないか?」




以上十月六日〜十一月八日までの拍手SS二代目です。
共通テーマは「カップルを片割れの視点から」所謂一人称。
そして名前は伏せて。


◇◆◇一言◇◆◇
11:華月視点。ナユタとの出会いはもうオボロです。
12:ナユタ視点。華月との出会いは嫌な事でもはっきりと。
13:アルフ視点。義務からの心の変化。彼は露知らず。
14:セム視点。こんな意気地なしでは無いんですが…
15:一樹視点。9のその後。おっきい子供が二人。


このお題は奇数なのでどこかのカップルが片方のみの登場になります。ノロウェイ〜のセムがそうでした。



微妙な19のお題。






SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送