僕ら珠魅は泣かない種族。
そうでもしなければ生きながらえる事ができなかったからだ。
それが僕らの最善の延命手段だった。
だから僕らは久しく仲間の涙を見た事がない。
パートナのきみ、あの月夜の晩に初めて出逢った。きみの涙ももちろん見たことはない、
自分の涙も見た事がないのだから当たり前だろう?
涙とはどういうものなのか『珠魅』は知らない、きみも知らないんだ、なのに悔しい事に僕は『涙』をきみに教える事ができない。
きみは知らないまま『珠魅』として生きる事になる、それが辛い、
涙はきっと生きとし生けるもの全てに必要なものだから。
だからきみにもいつか知ってほしい、『涙』を、そのぬくもりとかなしさとつらさと…全ての感情において流れる事が可能な『涙』を。
『涙』はいつかきみにも流せるはず。きみはぬくもりもかなしみもつらさも知っているのだから、きっといつか流れるはず、僕と違って。
いつも僕の横にいるきみ。僕の横しか居場所のないきみ。
きみの目はとても澄んでいて深い海を模した色をしている。そこから流れる涙は何色なんだろうか?
きっと綺麗な事だろう。
他の仲間の誰よりも綺麗な深い青の眼から流れる涙。皆と同じ透明なのだろうか?
きっと惹き込まれてしまうだろう。
いつか来るきみの見たことのない行動に惹かれる事だろう。同じで在るはずがない。
きっと見惚れてしまうのだろう。
16.なかしたい。ないてほしい、ぼくだけのために
いつか…いつか…
涙をこぼして、零れないと謳われた僕らの涙を…
そしてその涙は僕に頂戴?
17.溢れ出てくるのはどろどろとした醜い感情
あたしには良くわからないけれど、この醜い感情が綺麗になってくれる日は来るのでしょうか?
あたしがいつも逃げる理由、判ってくれる人はいるのかしらといつもの逃走ルートを使う、いつも、いつも…でもその逃走ルートをみんな知らない、みんなあたしがいつもこの通路を通るのを知らない、いつも通っているのに…それだけみんなあたしに関心がないって事なんだよね?
ココはあたしのお気に入り、だって白い雪の世界に遠くには青い空と町並み、それが一望できる素敵な場所。穏やかな風が吹いた時には更に最高の場所となる。とにかく大好きな場所。
今は白い雪の大地も真っ黒に空と溶け込んでよく判らないけれど、あいかわらず穏やかな風が流れ、遠くには星のように町の光が輝いている。
今日、またあの姿を見つけた、金髪の赤い服を着た人。もしここがあたしのお気に入りの場所だって事を知っている人がいるんならあの人だけなんじゃないかな?だってあたしが逃げてるときは大抵ココを見上げてくれているもの。あの人の名前は良くわからない、近くで見たことなんて無いもの、顔だって良くわからない。でもきっとあたしを理解してくれるならあの人だけだ。
誰もあたしを理解なんてしてくれやしない。
涙を堪えようと上を向く、夜目に慣れていない所為かまだ星ははっきり見えることはない。それでもやっぱり堪えきれなくなってあたしは自分の両腕に突っ伏した、腕に水の感触が広がる。嗚呼、あたし、泣いてるんだな…
誰にも聞かれないように極力声を抑えて気配を消してしばらく泣いた。少し落ち着いたからもう一度空を見上げようと顔を上げたその一瞬、いつもの場所からあの人が見えた、こんな夜遅くに何やっているんだろうという疑問が湧いたけれど、この格好で声をかけたくはなかったのでじっと見ている。
初めて回りの景色と対比してみて意外に背は高いんじゃないだろうかと思った。もっと近くで顔を見てみたいな、と思った、明日、会いに行ってみようかな…?どうせ勉強は抜け出せばいいんだし。
明日逢ったらまず何て声をかけようと思いながらマントを翻して去っていくあの人の背中を見る。
明日はあの背中がもっとそばで見られるのだ。
そう思った瞬間、それまで汚かった感情がすうっと綺麗になっていくのを感じた。
もしかしてあたしはあの人の事…
また水の乙女と話し込んでいる闇の人間を見て少し憤慨する。二人が並ぶと身長的なバランスと言い、雰囲気と言い、どれをとっても本当に『お似合い』で並んでいて不自然じゃない、
…例えば不釣合いな私とあなたみたいに…
…だから、少し腹が立つ。
18.あなたという人が、自分だけのものになればいいのに ……
そんなわがままな考えを振り払う。まただ…どうしてあの人の事を考えると卑屈になってしまうのだろう、もっともっとあの人に良い所を見せたいと思うのに心は裏切ってばかりだ。これじゃ…あの人はわたしをどう思ってくれるの?
わたしの不安を他所に遠くで水の乙女が笑顔で彼に話しかける、彼女らしい笑顔で。この分厚い壁が存在するかのような距離を淋しく思う、わたしも水の乙女みたいな笑顔で彼の前で装ってられてるのだろうか?
…だったら、悲しいけれど嬉しい。少なくとも彼の前でわたしは楽しく振舞っていられる事だから、…嘘をつきながら、ね。
『自分だけのもの』
…なんてわがまま極まりないと思う、だって他の誰のものでもなくじぶんだけのものなんだもの、それって良い事なの?悪い事なの?わたしにはよくわからないの。
もし、もしも良い事なら…貴方をわたしのものにしても良いですか…?
わがままだけれど、わたしもそれは良くわかっているけれど、願わずにはいられない、あんな光景を見ちゃ…だれだって…そう思わずにはいられないでしょう。
さっきからずっと見ているけど、本当に見れば見るほどとお似合いだって思えちゃう、自然だとも思っちゃう、これはわたしの勘違いなんかじゃない。わたしとあの人の身長のバランスなんて見事凸凹だし、雰囲気だってまるで大人と子供、不釣合いだ。だから不安になる。
ああ、これが嫉妬って言うのかな…?同じ精霊仲間相手にこんな感情…持ちたくなかったのに…。
お願いだから…
お願いだから…
早くわたしに気づいてください。
深い…
深い…
…暗い…
彷徨う場所はいつも暗い夜の世界だった。
私が司る属性の所為もあるかもしれないが、私のいる所は常に闇に包まれていた。
光は遠くに見える町の灯りと空の遠くで光る月の光。月の光は大きさを強さを変えて私を照らす。私の住まう常に暗い世界の希少な光、それは私にとってなんなのだろうか?私にとって月、つまりは貴女が私のそばに在る意味は…
貴女があの月を司っている所為か私は貴女を忘れる事無く永遠にも似た長いときをゆっくりと一人で静かに過ごす。
たまに間違えて人が私が変化した船へ乗ってくる、がしかしすぐに私の中に住まう闇のモンスターに襲われる、大半は襲われて死んでしまうか暗い海に飛び込み消息がわからなくなるかだ。もちろん私はこの事に関しては何もできずただ見ているだけしかできない、私は『船』なのだから…それは貴女が司る月と同じで、高いところから見ていることしかできない。
ただの無力か、興味がないだけか、はたまたそう願っているからか。
ときどき思い悩む時がある、無力であれば歯がゆい、興味がないのなら淡白なだけなのだろう、そう願うのは果たして本当にそうなのか?私は闇を司る、だからありうるのかもしれない。そんな考えを張り巡らせ、貴女はどうするのだろうか?どう思っているのだろうか?そして思考は貴女のことへと切り替る。
暗い闇の中、一筋の月の光。
黒い波を漂う私に一筋の進路を。
その私の姿を作り出すのが貴女なのだ。
そして…
19.永遠にも似た、このひとときに …
…私は貴女を思い出す。
以上十一月八日〜十二月九日までの拍手SS二代目です。
共通テーマは「カップルを片割れの視点から」所謂一人称。
そして名前は伏せて。
◇◆◇一言◇◆◇
16:J・C視点。父親のように恋人のように。
17:アンジェラ視点。4と対。すれ違いの恋の始まり。
18:ルナ視点。お姫様の嫉妬は幼くて我侭で。
19:シェイド視点。船だった頃。きっと今と変わらない。
微妙な19のお題。
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