1 オレンジ

コロコロ…

「転がってるぞ」
「ああ、すみませんシキ」
買い物袋から逃げ出したオレンジを冬夏へ手渡す。
吉野の手の中にきれいに納まっていたオレンジは冬夏の手に渡った途端、大きくはみ出す。
「…手、小さいな」
「シキよりは小さいですよ」
ムッとしながら言い返し、オレンジを再び袋の中へ入れる。
果物は他の買い物袋とは別袋にして常温で保存しておくらしい。
「手伝う」
先ほど学校兼買い物から帰ってきたばかりで何も片付いてはいない、
そのまま何もしないでいるのは気が引けたので手伝おうとする。
「この袋をワゴンの下の段にお願いします」
いつも常温保存してる食品をおいてる場所だ、迷わずに冬夏の指示通りしまいこむ。
「さて、お茶にしましょうか」
「そうだな」
あとは春秋が帰るまでゆっくりとした時間を過ごそうと考えていたのはお互い様だった、
冬夏がオレンジ色のカップに紅茶を注ぐのを吉野はじっと見る。
「それ、初めて見るやつだな」
「ええ、冬に向けて買ってみました」
吉野の指し示しているオレンジのカップを差し出して冬夏は答えた、
「冬に似合う色だと思いまして」
確かに『炬燵にみかん』と言うイメージからか冬はオレンジ色をイメージしてしまう、
「白でも良かったんじゃ…」
「オレンジの方が暖かいです」
暖色系のオレンジは見ているだけで暖かさを感じる、
温かい飲み物を入れるなら白よりはオレンジの方が向いているだろう。
「…確かにあったかいな」
紅茶に口をつけようとした瞬間、聞きなれた玄関が開く音と共に冷たい空気が流れ込むのがわかった。
「ただいま!寒いー!」

誰にとっても白でもオレンジでもこの空間が暖かいことは確かだった。




2 ピンク

恋はどんな色をしているのだろう?

油断しすぎた所為もある、俺は何故か人間の女に取り憑いてしまった。
しかもその人間は悪魔祓い、しかし自分に取り憑いた俺は祓う事ができないらしい。
まったく、なんでこんなヤツに一度は祓われかけたのだか…
「なぁ?」
「はぁ?」
独り言の延長で女に同意を求める、
しかしやつに俺の思考は届かなかったらしく、怪訝な顔で見返された。
「何言ってるのよ?」
「別に」
女は溜息をついて先を歩く、どうやら他の先輩悪魔祓い師を頼るらしい、
それでも俺は祓えないランクだがな。

それをやつに言わないのは何故だろう?

良くわからないが、きっとこの旅が楽しいからだろう。
よく考えたら今まで取り憑いても結局は部屋に閉じ込められ、日の目を見ることは無かった、
取り憑いてなければそれはそれで仲間と住む所に呼ばれるまで暮らしていた。
だから外で思い切り出歩けるのは初めてなのだ。




3 紫

貴方の目は覗き込むほど不思議な色で――…


「――っわ!」
「あ、起きちゃいました」
意識を浮上させた途端、目に入ったのは間近に迫るリースの顔、飛び跳ねて当然だ。
「そんなに近づくな!驚く!」
息を荒げ、顔を真っ赤に染め抗議をするが、そんなデュランをお構いなしにリースは尚もじっと見つめる。
「…なんだよ」
ようやく冷静になったデュランが眉をしかめつつも自らリースに顔を近づける、自分から近づくには問題ないらしい。
「?!」
ぼんやりしていたのかリースは先ほどのデュラン同様飛び退ける。
「なっ…なんなんです?いきなり近づいて――」
「それはこっちの台詞だっ!!」
天然にもホドがある発言に思わず怒鳴り返す、かといって本気で怒っている訳ではない。
「だから、なんでさっきから俺の顔見てるんだよ?」
よく考えたら自分が寝ている時からじっと見続けていたのだろう、そう思うと尚の事不振に思う。
「あー…いえ…」
「言え!とっとと!早く!」
言葉を濁すリースにデュランは詰め寄り根気強く押す、
お互い似たもの同士からか、デュランはリースが『押し』に弱い事を知っている。
「…不思議な目の色だと…」
「目?不思議だと?」
しどろもどろとしたリースの言葉に反射的に言葉を返す、
「紫色です」
「…母譲りだ」
「不思議です」
「だからなんで?」
短い言葉のやり取りでは相手の深い思考まで読みにくい。

「綺麗な…色です」
「……」
「だから、見てみたかったんです」
不思議で綺麗な紫の目を。

「…こっちが照れるからやめてくれ」

これはデュランの本音だった。




4 灰色

嫌な天気。

「雪でも降りそうだな」
「王」
空を見上げていると、見上げんばかりの体躯の王が隣に立っていた、
慌てて居住まいを正すと、王は苦笑してこちらを見る。
「今更なんだそれは」
「今更ですが、一応」
この王に仕えること二年、今の所最長記録を着々と延ばしている。
「嫌な天気だな」
話題がころりと変わり、先ほど私が思ったことと同じことを口にする。
「ええ、私もそう思っていたところです」
世界は灰色に包まれ、昼だと言うのにもう薄暗い、これでは寒さが増すばかりだ、
もともと温暖な気候を保つこの国に発達した暖房設備は無い、
暖炉でさえもここよりもっと北へ行かないと見かけないほどだ。
「明日からまた戦だ」
「エシバル領へですか」
一番戦況の激しい領地へ応援に駆けつけ、そして必ずと言って良いほど勝利を掴む。
それを私は傍らで二年間見続けてきた、そろそろ本が書けそうな位に。
「あそこには『戦乙女』もおります、勝ち戦です」
「しかし王の私が駆けつけないで何が国の戦争だという?」
自らが出向き、味方の士気を上げさせるだけではなく、自国に対する責任を取ろうとしているのだ、
その国を守る責任感ゆえ、王は負けを知らない。
そして私も王を守る責任ゆえ…王を死なせる事だけなしない、私も死なない。
私が死ぬという事は王も死ぬという事だ、だから私はたとえこの地に雪が降ろうとも王を守り続ける。

明日、相変わらずの曇天の中、私達は出陣する。
そして晴天の中、私達は勝利し、国中に我等王の強さを知らしめるのだ。





5 銀

綺麗な綺麗な銀の髪、星の髪。

「魔法使いさんっ!」
急な声に意識を浮上させる。目の前には星のような銀の髪。
懲りずにこの森へやってくる彼女だ。
「うなされてました」
「ああ…すまない」
自覚はある、たまに見るあの悪夢。

――魔女が自分をこの塔に閉じ込めた――

「もう一度寝なおしたほうが、良いです」
黄昏時のような緩やかな紫の目を心配そうにゆがませる。
確かに彼女の言うとおり寝なおしたほうが良さそうだ、しかし、
「いや、客のお前が来てるのに寝てなど…」
そう言って起き上がろうと身を起こす、とたん、世界が回り、再びベットに伏していた。
しばらくは何が起こったか判断する事ができなかったが、すぐにわかった、
「お構いなく」
銀の髪は笑顔で私を投げ飛ばして強制的にベットに寝かせつけたのだ、
全くあの華奢な体のどこに私を投げ飛ばす膂力があるというのだろう。

起き上がり、彼女にお茶の一つでも出したいのは本当だったが、
このまままた私が起き上がろうとすれば先ほどの繰り返しだろうから大人しく布団を被る、
すると彼女は安心したように先ほどとはまるで違う笑みを浮かべてこちらを見た。
「安心してください『お客』もそばで眠りますので」
そう言った途端に彼女は私の横へ添う、布団の中へはもぐりこまない。
「布団も被らずにどこが『寝る』だ」
布団の上に寝そべる彼女を強引に懐に入れると苦笑いのような息が胸に当たる。
「おやすみなさい、魔法使いさん」
そう言うなり本当に彼女は私の腕の中で眠りこけてしまった、
恐らく徹夜で『戦乙女』の仕事でもしたのだろう、よく見れば彼女の顔にはうっすらとクマが浮かび出ている。
「おやすみ、フィオ」
私も銀の星を抱いて眠る事にした。




拍手SS五代目です。
共通テーマは両思いカップル(カップルは基本両思いですが;)の何気ない普段の事。



◇◆◇一言◇◆◇
1:オレンジ=暖色=ぽかぽか…って事で…ほのぼのな吉野と冬夏。
2:東洋人悪魔祓い師の少女とそれに取り憑いた悪魔の噺、悪魔の恋心。短い…
3:デュラリーですv紫=デュランの眼。なんですよ。デュランの紫眼、好きです。
4:王様と彼の護衛者である女騎士、暗闇に光明がさす直前の灰色。
5:男ラプンツェルの魔法使いと銀髪の少女騎士。素敵な夜と星。

内、2、4、5のテーマのキャラクタは「レジェンドリスト」と言う朔神の創作ファンタジー世界に生きてる方々です。


色系五題



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