※日記で思いつくがままに書いた短文をそのまま掲載しました。
ちゅーとか普通にしてるのもありますのでご注意。




【昼寝】

ふう、と何度目か解らないため息をついた雷蔵は長次を見おろす、顔色は全くわからなかった。
と言うのも彼の顔は広がった本がかぶさっているのだ。
その本を読んでいるのかと思えば胸には数冊の本が左手に抱えられ、右手にはまた広がった本が抑えられ、直前に何を読んでいたのか全く解らない。
それ以外にもページ途中で開きっぱなしの本や広がりっぱなしの巻物、つみあがった本も回りそこら中に散乱している。
そして当の本人は、雷蔵が気配を隠さずに近づいても目覚めないほど珍しく熟睡していた。

それに本を大切に扱っている彼が広げたままほうっておいてると言う状況も十分に珍しい。

いや、雷蔵が今まで見た事が無かっただけで本当はちょくちょくあるのかもしれない。
そして雷蔵はまた溜息をついた。

これは起こした方がよいのか

起こさない方がよいのか

悩み始めた彼は止まらない。

開きっぱなしだった部屋の戸を横切る通行人たちはこぞって「中在家が不破と本がある空間でものすっげー気を緩めているぞ」と生暖かい眼で見守っていたと言う。





【名月】

満月は煌々と辺りを照らし、軟らかく、青白く、世界は染まっていた。

それは隣にいる人も例外ではなく、薄青い光に彼の横顔は照らされて良く映えていた。
光は冷たく見え、彼を作り物のように見せる、彼を確かめようと触れれば頬はほんのりと温かい。彼は間違いなくそこにいるのだ。

「…どうかしましたか?」

見上げる月からこちらへ視線を移す、その触れた頬は少しだけ、その蒼に反発するように朱に染まっていた。

「いや」

短く答えると、彼は僅かに首をかしげて再び月を見上げる。
しばらく彼と共に月を見上げていた、時折、薄い雲が満月を覆い隠すが、月の光は輪を作り、雲を透かす。
強い風はその薄い雲をあっという間に吹き流し、また夜空にその丸い輪郭がはっきりした月が浮かぶ。

後ろで自分の髪がゆれる感覚がする、夜空の強い風がこちらにも影響を与えているのだと解り彼はどうだろうと見下ろすと、彼の髪も風に吹かれふわりふわりと揺らめいていた。

秋の風は冷たい、不意に彼の肩を抱き、こちらに引き寄せる、彼の肩はやはり冷たい風に吹かれてか冷え始めていた。

「先輩…?!」

突然のこちらの行動に驚いた彼が慌ててより顔を赤く染める。
抱き寄せた肩を更に強く抱き、そして月の光より優しくないキスをした。






【後日】


長次と雷蔵は修理した本を戻すため、書庫まで本を両手で抱えて運びながら歩いた。
ふ、と雷蔵の前を歩く長次は足を止める、それに合わせて雷蔵も立ち止まった。
「……」
長次は何か言いたげに雷蔵を見ると一度だけ前を向き、また雷蔵の方へ振り返って近づいた。
「え?」
雷蔵が長次の行動を測りかねている間に長次は雷蔵の隣に、その身を置いた。
「…隣が良いと、言ったはずだ」
「……!」
あの日の事だとわかるや否や、雷蔵は体が火照る感覚を覚えた。それについて悩みたいが、隣にいる長次は雷蔵が動くのを待っている、本当に、隣を歩くつもりだ。
「…はい」
そうして書庫までもう僅かの距離を並んで歩いた。





【365日のフライング】

0時過ぎ、日付が変わってすぐに聞きなれたメロディが鳴る。
それが自分の携帯の着信音だと気づくとこんな時間に誰からかと眉をひそめながら表示を見、その相手の名前に高揚感を覚えながら通話ボタンを押した。

「――もっ…もしもし…?」

声は、ひっくり返っていないだろうか、いつも通りの平静さを装っていられているだろうか。
しかし相手はそんな些細な事は気にならない様子で相変わらず元気な声で叫ぶ。
『ハッピーバースデー!滝ーっ!!』
大声からか音が割れ、雑音が入る、どうやらあまり電波状況のよくないところにいるようだ。
まるで昨日、いや数時間前に別れたばかりの様な、時間を感じさせない声を聞き、顔が自然と綻んだ、相手の声を聞くのはほぼ一年振りだ、昨年、高校を卒業すると同時に武者修行だと英語の成績が最悪だったと言うのに単身海外へ飛んでいってしまった彼、それから音信不通となっていたのだ。
「…ありがとうございます」
『へへっ、一番にお祝いしたかったんだープレゼント用意できなくってごめんな』
朗らかな、しかし心底申し訳なさそうな謝罪にいいえと返事をする、「あなたの声が一番のプレゼントです」とは口が裂けても言わない、いや、恥ずかしさのあまり言えないのが正直な所だ。
「今、どこにいらっしゃるんですか?」
広い家とは言え夜は音が響きやすい、なるべく声を潜めて一年行方をくらましていた恋人の現在位置を聞き出す。
『ん〜ええと…ブラジル、先週までアマゾンに行っててその帰り』
どこが武者修行なのかと疑問を抱く場所である、まさか希少動物相手に戦いを挑んだとでも言うのだろうか、だがこれで先程からの雑音も理解できる、地球の反対側同士の通話なのだから、電波が悪くて当たり前だ。
『一番にお祝いしようと時差の勉強頑張ったよ!』
「そうですか…ありがとうございます、そう言えばいつ頃戻る予定ですか?」
『わかんない、まだいろいろ見てみたい所とかあるし…』
彼らしい応えに思わず笑みがこぼれる、一年前と変わらないやり取りだ。
『もしかして恋しくなったのか?』
「なっ――!」
先程から自覚はあったものの、認めたくはなかった答えを指摘され思わず絶句する、叫ばなかっただけ幸いだ。
『大丈夫、必ず迎えに行くから』
いつものはしゃいでいる時の声色より少し低く大人しい音は彼本来の声だ、滅多に耳にする事のない声をできうる限り鮮明に記憶しようと目を瞑る。
『で、お願いがあるんだけれど…』
惜しいかな、次の瞬間にはいつも通りの明るい声に戻っており、記憶しようとした声はその声によってかき消されてしまった。
祝いの言葉を送ってきたと言うのに頼み事とはその強引な性格は全く変わっていない、どれほどこの性格に振り回されてきたことかと呆れるが、もう慣れてしまったので普通に返答する。
「…なんでしょう?」
『名前、呼んで』
以外にもシンプルな頼みごとに一瞬だけ虚を疲れたように目を丸くする、だが受話器の向こうにそのリアクションは通じなかったらしく、答えに空いた間を気にして「もしもし」といくらか繰り返す声が聞こえた。
「え…七松…先輩?」
『違くって!名前!下の名前!』
精一杯、頑張ってその名前を呼んだというのに、呼んだことのない「名前」を呼べと言ってくる。こちらがどれほど緊張しているのかわかっていないのだ。
「…えと…こ、小平太先輩っ」
やや早口で言い切ってから押し黙る、向こうも、何を思っているのかわからないが無言のままだ。
『元気出た!ありがとう!もう少し頑張ってからそっちに帰るね〜滝、大好きっ!』
いつも以上に浮かれた声が向こうから聞こえてくる、そして返事をする前に通話を一方的に断たれた、「ツーツー」という音が信じられずしばらく唖然とする、まるで幻と会話していたかのような気分だ。
「……」
少しだけ息を吐いてからのろのろと携帯を閉じる、閉じたサブディスプレイには00:30の表示、そして誕生日の翌日の日付――…

時差を一生懸命勉強してくれたのは正直嬉しい。
だが、残念な事に太平洋と縦断するように存在する「日付変更線」の存在には気付かなかったようだ。






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バレンタイン、という事でそれらしい小話でも…
とさっき風呂の中で練成してました。でもこの流れならバレンタインより誕生日かなぁ?という事であっさりと変更、ほら、滝、みずがめ座だし。
さり気なく現パロ、三万ヒットの時のあの設定。多分ウチではこの設定が基本なんでしょう。
小平太はいけどんで世界各国を回ってる。
滝はそんなこへと身分違いの恋をしている(現在進行形)すっごいイイトコの跡取り。お家はただっ広い和風の邸宅。

朔神家はこういう行事はとことん無関心な味気のない家だので、正直ピンと来ないのが本音です。
父の日、母の日、勤労感謝の日、果ては両親の結婚記念日も、ただ一年のうちの一日扱いです。



【世界を埋め尽くしてもまだ足りない】

二月十四日、世間はバレンタインと呼ばれる一大イベントに染まる。
そんな街をやや早足で雷蔵は長次の家へ向かっていた、と言うのも一週間ほど前からバレンタインはうちに来るようにと言われていたのだ。
もちろん、雷蔵も不器用ながら世間の波に乗るように手作りのチョコレートを用意した、ちゃんと味見もしたし珍しく分量もきちんと測ったので失敗はしていないはずである。
合鍵を使ってマンション内に入る、エレベータの類は無いので階段で目指すは三階だ。
勝手に入ってもいいとは言われているが、やはり抵抗があるので一度ドア前のインターフォンを押してからゆっくりドアを開けるのが最近の来訪の仕方だった。
それに習ってドアを開けると異臭とも取れる甘ったるい匂いが流れて来た。
「…こんにちは…」
ワンルームなので目の前はキッチンである、そこに手狭そうに調理をしている長次が雷蔵の方へ振り向いた。
「あ…あの…」
玄関でまごまごしている雷蔵に長次は上がるようにジェスチュアをする。それに大人しく従うと長次にそのまま腕を引かれ奥に在る部屋に連行される。
部屋の中は匂いの根源とも言える、数種類のケーキにプリンやブラウニー、トリュフ等と言ったチョコレートを材料にした様々な料理が所狭しと並んでいた、チョコレートに彩られた作品はテーブルの上だけでは足りなかったらしくフローリングにまで皿が並べられて匂いを発している。
「これ、全部作ったんですか?」
「……」
頷く長次の手にはスイーツ調理本などが数冊納められていた、どうやらそこから情報を得て作り始めたらしい。
(そうだ、一度凝り出すと止まらない人なんだった…)
長所か短所かそのときによるが、更に言えば一聞いて十を知る男である、料理は更に彼の脳内で発展し進化を遂げたに違いない。
長次の『作品』は繊細で芸術的だった、店に並んでいてもおかしくないだろう、その品々を避け、やっと座れるスペースを作った雷蔵はちょこんと座り込む、周りを見渡せば360度チョコレート、まるで自分もチョコレートになってしまった気分だ。
最後の作品を片手に長次は雷蔵の傍にしゃがみ込む。
「――バレンタインとは愛情の量とチョコの量が比例してこそだと聞いた」
噂の出所は予想がつく、彼に嘘を吹き込める人間は限られているからだ。
「まだ足りないのだが…どうしたらいい?」
「そっ…その言葉で十分補えてますよ」
真剣な目つきに耐え切れず、雷蔵は赤く染まった顔を伏せる。視界の端に入った鞄の中には渡しそびれたチョコレート。

ああ、ああ、どうしよう。

先輩の聞いた話を真実だとするのなら。

ぼくだってこんな一個じゃ足りません。

これが世界を埋め尽くしたって足りません。




【あの人の目、わたしの目】
すぅ…と手が伸びてくる。
その手は頬を撫ぜる。

ざらりとした感触と自分とは違うひやりとした体温にぞくりと背を震わせる。

「不破」

名を囁かれてまたぞくり。思わず目を閉じる。
頬を撫ぜていた手にそのままぐぃと引き寄せられ口付けられる、そしてゆっくり味わうように唇と、歯と、舌とをまるで甘噛みするように食んでくる。
「んっ…!」
食まれながら寝巻き越しに背骨を下からなぞられ、くすぐったさに思わず声を上げてしまう。
首の骨まで行き着くと同時に息苦しさを感じたのか唇同士の距離がようやく離れた。
「っ…はぁ…先輩…」
深く呼吸を整えながらも名前を呼ぶ。
かちりと合ったその目には僕しか映っていなかった。

「中在家…先輩…」

再び呼ぶと同時に不思議な浮遊感に襲われ押し倒されている事に気付く。
強張り、上下する胸に置かれるその手の冷たさが心地よい。
きっと僕の目にもこの人しか映っていないのだろう。
再度降ってくる口付けを受け入れ身体を疼かせながらぼんやりそう思った。





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