【かごめかごめ】





授業が全て終わり、放課後になっていた。クラスメイトは連れ立って教室を出て行くが俺は一人だけ残ってぼんやりと窓の外を見ていた。
いつも一緒にいるといわれている雷蔵は今日は図書当番で授業が終わって真っ先に教室を出て行って図書室へ文字通り飛んでいっていた、そんなに急がなくても良いのに、と思いながらも僅かに隠し切れない笑顔を見てムッとする。
今更嫉妬したってしょうがない、冷静になろうという意味も込めて、ぼんやりと空を見ていた、ふと何気なく地上へ視線を下ろすと遠くからあの子の姿が見えた。
俺は二階、あの子は校庭、だけれどそんな遠さなんて窓を飛び出せば一瞬で縮められる。

あの子は冷静だから。その冷静さがどんな事で崩れてしまうのかが楽しみでついかまって悪戯してしまう。近づく一瞬で今日はどうしてやろうかと企んで、答えを出して即座に実行に移した。
あの子――庄左ヱ門の目の前に降り立って、にこりと笑う。
幸いにも近くには誰もいない、夕暮れ時で彼の顔は、体は辺りと一緒に薄暗く、闇に染まりかけていた。それでも俺の姿はちゃんと認識できる明るさであるはずだ、向こうはこの姿を、正確には顔を見てしばらく唖然とする。
「どなたの変装ですか?鉢屋先輩」
彼が聞き返すのも無理は無い、彼が俺の変装として初めて見る顔だからだ。自分の名前を言われて即座に顔を元に戻す…と言ってもそれは友人の顔で、俺の顔ではない。
「んー誰でしょう?」
平常心を装って返すがほんの僅かに動揺した、一瞬でこの子は俺を見出した、それは予想をはるかに上回る速さだ。
気を取り直して並んで歩く、方向的に彼は長屋へ向かう途中だったのだろう。彼は手ぶらだった。
あれから交わす言葉は無い、先ほどの顔が誰なのか庄左ヱ門はしつこく聞こうとしない、それが彼の面白い、思わずかまってしまう所だ。
元々学年もなにもかもが違うのだ、唯一共通するのは学級委員と言うことだけである、そんな俺達に会話が弾む要因はない。それでも弾むのは俺がしょっちゅう彼をかまっているからに他ならないのだ。俺さえ黙れば沈黙は自然と訪れる。

そんな沈黙の中、たった一つ、この子に聞いてみたい事があった。それは悪戯の延長だったけれど、でも、少しは本気だった。
「もしもの話。さっきのカオが俺の本当の顔だとしたら、どうする?」
自分でも珍しいと思ったことだったが、この顔は本当は本当に本物の自分の顔だ、しかしそれに気づくことなんてないだろう、果たしてこの子はどう答えるのだろう?庄左ヱ門の頭の回転は速いからついイジワルなことを言ってしまう。
「どうもしませんよ」
悩むかと思えば即答のその言葉に驚く。もちろん雷蔵の顔で。
「なんで?」
理由がわからないから珍しく、庄左ヱ門には恐らく初めてその答えに対しての理由を求めた。

「だってどんな顔でも鉢屋先輩って解る自信があります」

その大した自信に唖然とする。
「だからあの顔が本当の顔でもそうでなくともどちらでもかまいません」
「……」
そういえば、さっきだってこの子が見た事ない顔だったのに俺だと気づいたじゃないか、部外者だと疑うことも無く。それこそがこの子の答えじゃないか。
「…それって、俺が変装してる意味…」
「素顔を隠す化粧程度ですね」
いくら変装しててもばれてしまうのだからその通りだ。彼は笑顔で切り返し、もう暗闇で見えなくなった笑顔で「でもきっと不破先輩でも同じこと答えますよ」と言う。
一瞬、それを想像して笑ってしまった、それを見た庄左ヱ門は驚いたようにこちらを見ている。
「なに笑ってるんですか?」
「いやいや…雷蔵はねもっと違う答えだったよ」
雷蔵にも、昔同じコトをしていた、その記憶が鮮やかに脳裏に蘇る。

『…やっぱりぼくらは他人なんだね』

淋しそうに笑っている雷蔵の顔は一番鮮明に記憶している。
「そうなんですか?」
また、庄左ヱ門は深く追求する事無くただ相槌を打つ。追求しないのはもしかしたら興味が無いか、はたまた全てお見通しだからなのかもしれない、それはそれで十歳とはとても思えないけれど。
「そうそう、庄左ヱ門の答えは面白いね…」
思わず言いかけた言葉を飲み込む。途中で不自然に切ったから庄左ヱ門は夜の中で首をかしげた。
「…鉢屋先輩?」

うん、ごめんね、悪いけれどこの先は言えない。











…嬉しい、だなんて、きっと…言えない。

















一言
鉢屋は本心隠したがり、好きな子の前では尚更。





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