※記念小話設定のパロディーさんです。






















【ナンジリンジンヲアイセヨ】





留三郎がリビングに入ると、それに面してる庭から隣の家が見えた、その家は小さい頃から親交の深いお隣さんでよく家族ぐるみで旅行にも行く。
ただ、最近は子供たちが全員ある程度大きくなってしまった所為かもっぱら親同士の付き合いのほうが深いようだ。
リビングの窓を開け、そこからサンダルを履いて庭へ出る、低い生垣の向こうで幼馴染の兄弟が何か言い合い、兄の方がまず留三郎に気づいた。
「あ、トメ兄ちゃん」
「おーハチ、どこか出かけるのか?」
兄の八左ヱ門、弟の孫兵、一人っ子である留三郎からすれば兄と慕ってくれる彼らの存在はくすぐったかった。

留三郎の指摘どおり出掛けるような服装でいる八左ヱ門は嬉しそうに笑みを浮かべた。
「そーあの善法寺さんと!」
「ああ、伊作とか」
善法寺伊作は留三郎の高校の時のクラスメイトであり、この前偶然、高校の時仲が良かったグループで集まっていたときに八左ヱ門と彼の友人と会い、そこでどうにも惚れ込んでしまったらしい、あの後連絡先やらなにやらの仲介で酷く疲れたのを覚えている。
どうやら休日に出かけるまでの仲にはなったらしい、仲介をした甲斐があったというものだと一安心する、根が真っ直ぐすぎる子だから少し心配ではあるが、相手が伊作なら大丈夫であろう。

「あ、そろそろ行かねぇと…!」
「そうか、いってらっしゃい」
「…いってらっしゃい」
それまで黙っていた孫兵と一緒に留三郎は八左ヱ門を見送る。彼は自分の自転車に跨り颯爽と道路へ乗り出して去っていった。
ふと、留三郎は生垣の向こう側にいるもう一人の弟とも言うべき孫兵を見下ろす、小さい頃は一つしか違わない八左ヱ門のほうとよく遊んでいたが、この頃は当の八左ヱ門がああであるため、自然と二人でつるむ事が多くなっていた。
彼は先程の会話にほとんど口を挟むことはなかった、足元には室内犬のジュンコが尻尾を振りながら駆け回っている、外の空気を吸わせるため一緒に外に出ていたらしい、これでリードをつけないでいるからたまに逃げられて探すハメになるのだ。
「いい加減お兄ちゃん離れしないとな」
「わっ!」
苦笑しながら手を伸ばし、わしわしと容赦なく孫兵の頭をなでまわす、孫兵は迷惑そうにそれから逃れてしゃがみ込み、足元にいるジュンコを抱き抱えた、彼女もいきなり抱えられ多少迷惑そうにもがいていたがやがて諦めた。

小さい頃から知ってる彼の思考は手に取るようにわかる、今までずっと一緒だった兄を、知らない人間にとられたようで悔しいのだ、子供っぽいと思うが、まだ高校生なのだから当たり前かと内心笑う、自分もほんの少し前までその高校生だったというのに随分と単純なものだ。
「まぁ、例えお兄ちゃん離れした所で、俺は傍にいるからな」
「そんなの当たり前だよ、トメ兄さんだってハチ兄と同じ僕の兄さんなんだから」
しゃがんだままで孫兵はわずかに生垣から身を乗り出して、彼を見下ろし苦笑している留三郎を見上げる。
身長差からか見上げられる事は多い、よって上目遣いで見られることも多い、その視線にどきりとしながら「ああ、そう汲み取られるか」と内心溜息をつきたくなる。
「いや…そういうことじゃなくて…」
じゃあどういう事なのだと自問自答する、もしかしたら八左ヱ門が少しうらやましかったのかもしれない。

しどろもどろとなっていると痺れを切らしたのか孫兵は立ち上がって留三郎との距離を埋める。
「じゃあどういう事?兄さんとしてじゃなくならなんで傍にいてくれるの?」
うらやましいからとつい口が滑ったことに後悔し、ここまで来てしまったのなら引き返す事は無理なのだからいっそ言ってしまおうかと思案する。
目前には疑問と好奇心が混ざったかのような双眸がこちらをじぃと見ている、その期待を裏切るようなマネは気が引けた。
彼を思ってはぐらかしたからと言ってもそれはエゴでしかない。
「うん、好きだからだよ」
裏切りたくなくて告げた真実、これもただのワガママなんじゃないだろうかと空気に晒した後に気付く。

孫兵はと言うとぽかんと目を丸くし、微動だにしない、思考がストップしているようだ、思いがけない言葉を聞けば大概そうなるだろうと留三郎は一人納得する。
「…まさか…」
「…?」
混乱の末、出てきた孫兵の言葉に留三郎は首をかしげる、もし信じられないような答えであるのなら「まさか」よりも「嘘」である方が咄嗟に出やすいというのに、彼はわざわざそれを選んだ。
「なんだ?」
「あ…まさか…本当に言うだなんて思わなくて…」
心なしか、孫兵の顔が赤い気がする、表情といい、言動といい、答えは一つしかない。
「おい…知って…?!」
「あ!でもうっすらとだよ?!僕も、兄さんが好きで…ずっと見てたから、そうだったらいいなって!僕の希望と言うか、その位だよ?!あ、でも実際に好きとか言われると本当にドキドキするんだね、今顔が赤くなっているのが解るもん…!」
慌てたように取り繕い、言葉を並べ立てる、その顔はさっきよりもずっと赤く染まっていた。
慌てて言い繕う言葉に誤魔化されなどしない、聞き捨てならない言葉たちが確かに、いくつかあった。

「おい、落ち着け…」
落ち着かせて、もう一度ゆっくりと聞きなおそうと肩に手を伸ばす、触れた途端、びくりとそれは震え、逆効果だと知った。
「ごっ…ごめん、も、嬉しくっ…て」
堰を切ったように涙を流す孫兵を見て、まさかこんな展開になろうとは予期しなかった留三郎はただうろたえるばかりである。
知られていたと動揺する事よりも現在起こっている事柄をどうすべきかで頭がいっぱいであった、慰めるべくにもこの低い生垣が邪魔で近づけない。
「ああ、すまん、とにかく落ち着け」
「落ち着いて…」
いる、と言いたいのだろうがその先がどうにも言葉にならないようだ、うつむいてぴたりとその動作を止める、それを見た留三郎は不審に思いながらも泣き止んでくれた事に落ち着いたかと勘違いをする。

「あ!!」
「なっ?!今度はなんだ!」
俯いて、落ち着いたかと思えばいきなり顔を上げて驚いたように辺りを見回す、その表情はもう既に泣いてはいなかった、だが落ち着いたとも少し様子が違う、この表情は留三郎も良く見かける孫兵の表情で、その次に発せられる言葉もだいたい予想がついた。
「ジュンコがいない!」
ああやはり、今庭を見回したのはその為かと留三郎も見える範囲で隣の家の敷地を見渡すが、やはりあの犬らしき姿は見えない。


逃げたのだ。


彼女の脱走癖は数年に渡り人間をてこずらせてくれた、おかげで留三郎などにいたっては陸上の中距離で全国大会にいけるにまで至った位だ。
県大会優勝のたては未だにリビングに、笑いの種として飾られている。
「トメ兄さん!ジュンコ捕まえるの手伝って!」
もうすっかりいつも通りの孫兵はそう言うや否や道路の方へ向かって走っていく、何年もの付き合いで逃走する道筋も大体わかっているのだ。
流石にサンダルでは走りにくいと思いつつ、取り残された留三郎はそれを見送った後、ゆっくりと首をかしげた。






果たして、両思いなんだろうか?






前途多難である。
















一言
…記念小話で、設定があっても登場すらなかったので救済企画…
でも書いて気付いた、この設定だと孫兵の口調が変わる!!のです。アイタター。





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