【事後報告】





ある日のお昼の事でした。
その日、授業が終わって僕と留三郎は食堂に行く途中の廊下でい組の仙蔵、食堂のカウンターでろ組の小平太と長次と合流してお昼を食べる事になりました。
朝や夜と違って昼は授業が長引いたりするので各自バラバラに摂るのですが、今日はどうやらどのクラスもほぼ同時に授業が終わったみたいでこういうのは久しぶりです。
文次郎だけ会計委員の仕事で席を外していましたが、五人もいれば朝や夜の食事のように自然と賑やかになります。
でも、やっぱり長次だけは元々無口なのでリアクションはしてくれるものの滅多に喋りません、それもいつもの事なのでほうっておきました。
「……」
最初に異変に気付いたのは仙蔵でした。
仙蔵はふと食堂の離れた席と長次を目だけで窺って頷いてまた会話に戻りました、不思議に思ったので僕も仙蔵のしたようにそちらへ見やると片方にはやっぱり長次が、あともう片方には五年生の不破君がいました。
僕が視線を戻すと向かいに座ってた留三郎もそれに気付いたようで目の合った僕に向かって苦笑いをしました、小平太は留三郎より少し遅れてだけれどようやく気づいてはしゃぎたい気持ちを抑えていたのか声が少し大声になった気がします。

長次と不破君が付き合ってるのは僕らの中ではとっくに知られてることです、なので僕ら三人は二人が見詰め合ってるのにもいつも通り微笑ましいなぁと思うだけで別段気にも留めなかったのですが、仙蔵だけは別のようで、小平太のマシンガントークに冷静に合いの手を入れながらも長次と不破君の様子を窺っています、流石に食事中だったのでずっと目を合わせているという事はありませんでしたが、やっぱり仙蔵の反応を見ると結構頻繁に目を合わせているようで仲がいいなぁと思ってました。
あ、もちろん昼食ですからね、自分のご飯を食べるのを忘れてはいませんよ、それはしっかり摂ってます、第一ご飯を抜いたら午後の授業なんてとてもじゃありませんが乗り切れませんから、噂によると五時間耐久校外障害物競走だそうなので、もう六年になるとひたすら体力削られる危険な実技ばっかりでイヤになりますよ、だってその分僕は不運だから怪我をしやすくなりますし、保健委員としての仕事は増えるし…


あ、すみません、それでお昼の話でしたよね?
その後、長次も不破君もお互い会話する事はなかったんですけれど、それは長次の近くに僕らがいた所為で不破君が近づけなかったからなのかもしれません、いつも彼は僕らに遠慮して近づこうとしないんです。
僕らはふざけあっていた所為か不破君のほうが早く食べ終わって席を立ちました、隣にいたのは竹谷君だった気がするんですが…もしかしたら変装した鉢屋なのかもしれません、鉢屋の変装は得意なものになればなるほど僕らでも見分けにくい時があって、遠目なら尚更ですよ。

二人が食堂を去ると長次もさっき不破君が来るまでの雰囲気に戻ってて仙蔵は少し不機嫌そうになってました。
一番最後におしゃべりばかりしてて食の進んでなかった小平太が食べ終わり、僕たちも食堂を出ました、長次は昼休みの図書室の様子を見に僕らから離れて足早に図書室の方へ向かっていきました。
僕と小平太と留三郎は長次は図書室が好きだな〜と見送っていましたが、やっぱり仙蔵は不機嫌なままで、正直声をかけにくかったです。


「仙ちゃん、さっきから不機嫌だけどどうしたの?」
何事にも遠慮のない小平太があっけらかんと仙蔵に思ったままの疑問を投げつけます、小平太のその素直な所は強みだと思うのですが、ほんの時々でいいので空気を読んでもらいたいです、はっきりいって大迷惑です。
小平太のこの発言で仙蔵がキレたところで影響を受けるのは大抵文次郎や留三郎ですが、僕はと言えばその治療役になってとてもわずらわしいからです、でも僕自身が仙蔵の八つ当たりを受けにくいのでそこら辺は助かっています。

「ほぉ…不機嫌に見えるか?」
そう言って薄ら笑った仙蔵の顔は忘れたくとも忘れられません、なんと言うか…詩的な表現ですが荘厳さの中におぞましい何かが見え隠れしてるような…とにかく一言で言えば恐ろしいに尽きます。
その仙蔵の表情に僕と留三郎は思わず押し黙りましたが、空気の読めない小平太は全く気にする様子もなく平気で仙蔵と会話を続けました。
「うん、すっごいしかめっ面だよ」
眉間に皺を寄せ、大げさに仙蔵の表情を真似する小平太は無邪気です。実際僕も留三郎も仙蔵がしかめっ面だから不機嫌だと思っていたのですが、どうやらそれほど怒ってはいないらしく、ふぅと溜息をつくと片手を額に当てました。
「…いや、そうか、そう見えるか」
「うん」
溜息をついてる仙蔵に追い討ちをかけるかのように小平太が頷いて肯定します、仙蔵が怒らないのを見て留三郎も小さく頷きました。

留三郎は武術の成績はいいのですが、仙蔵と対峙するとどうしてもその気迫に負けてしまうらしく、情けない事に彼に勝つ事ができないのです、味を占めた仙蔵はだからこそ文次郎と同じく留三郎を遠慮なく振り回すのですが、哀れとしか言いようがありません、普段は険悪な留三郎と文次郎ですが、こと仙蔵に関しては意気投合しているようです。影でなんと言っているかは僕は仙蔵の報復が恐ろしくてとても言えません。
あ、また少し逸れましたね、すみません。


「…長次が見ていただろう?」
「ああ、見てたね」
昼食時の、仙蔵が真っ先に気付いた長次の視線とその先。みんな気付いているので長次が何を見ていたかとは仙蔵は口にしません。
小平太が下手な事言う前にと僕が相槌を打つと留三郎と小平太はうんうんと頷いていました。
「そりゃ気付くよー」
一番最後に気づいたくせにあたかも仙蔵の次位に気付いたような物言いの小平太は常に堂々としています。
「それがどうかしたのか?」
留三郎が当たり障りなく慎重に言葉を選んでいるのが容易に汲み取れ僕は笑いたいのを思い切り堪えました。

元々後輩の伊賀崎君が好きな留三郎はそれに対して仙蔵からちょっかいをかけられ振り回されるので、長次を同情してかこういう話題にはあまり乗り気ではありません、仙蔵のちょっかいの恐ろしいのは自ら当人に手を下す事ではなく、当人の好きな相手を使って間接的に手を下す事です、特に伊賀崎君と不破君はいちいち仙蔵のいう事を素直に聞き入れてしまう節があるので二人はいつもいろんな意味で大変な目に合うそうです。
かと言って小平太も同じく後輩の平君と付き合っているのですが…こっちは被害が及ばないのかそれとも小平太がそういったことに動じる方ではないのか、先の二人より被害に合う事は無いようです。

「十五分で十回、最長は二分」

仙蔵の言った数字の意味がわからない僕たちは揃って首をかしげます。恐らく何かの記録なんだろうとは思うのですが…あまりにも突然すぎて全く解りません。
「…なんだそれは?」
「仙ちゃん教えてよー」
「何の記録?」
矢のような質問に仙蔵は何か思い出したらしく珍しくげんなりと肩を落としてまた溜息をつきました、どうやらあまり思い出したくない内容のようです。
だからと言って言わなくて良いという事にはなりません、あそこまで言ってしまったのですから最後まで説明してもらわないとこちらの気が治まりませんから。
仙蔵は僕らの顔を順番に見てから確かめるように訊ねてきました。
「お前等、気付かないのか?」
「え?長次と不破君の仲が良い以外に?」
僕の答えは期待はずれだったらしく、仙蔵は大きく溜息をつきました。
「えー何何!教えてよー」
元々気の長い方ではない小平太が痺れを切らして仙蔵に答えをせがみます、僕と留三郎だって小平太ほど行動には出ませんが同じ位答えは気になりますよ。
仙蔵は散々じらした挙句…まぁそれも彼の計算のうちなのでしょうが…ようやく答えてくれました。

「あの二人が十五分間に目を合わせた回数とそのうちの最長時間だ」
「……」
仙蔵の答えを聞いて僕ら三人は唖然としてしまいました。しばらく時が止まったようにさえ感じます。
やがて仙蔵が僕らの反応を楽しんだのか続きを話し始めました。
「たまに二人が同じ空間にいると近づくわけでもなくただ眼を合わせるだろう?」
「ああ、そうだな」
正気に戻った留三郎が相槌を打ちますが、どこかやっぱり呆けたままです。
確かに仙蔵の言うとおり二人は同じ空間にいても近づく事は全くなく、不破君が長次に会釈してそれだけです、だけれど目はしょっちゅう合っているようで、その証拠に気付けば長次は不破君をじっと見てる事が多いんですよ。
多分、不破君も同じく長次をじっと見てるのでしょうね、だから目が合いやすいんだと思います。
「どういう頻度で目を合わせるか気になってな、数えてみた、最長時間はついでだ」
「へぇ〜仙ちゃんすごいねぇ、私には到底無理だよ」
アハハと笑う小平太ですけれど、確かに本人の申告どおり、じっと観察し記録を取るのは大の苦手だそうです、一年生の時に朝顔の観察記録を途中で対象を枯らして記録できなかったという話を長次から聞いた事があります。

「十五分で十回かぁ〜…結構頻繁だね」
目を合わせたらそらすまでにまた時間がかかりますからね、お互い昼食や友人との会話もあり寸断される事は多かったのでしょうが…それでも頻繁だと思います、更に最長二分って…飽きないのでしょうか?とても疑問に思ってしまいます。
「からかうネタになるかと思ったのだが…逆にやられた気がしてならないな」
また苦々しい表情になったと思うと舌打ちする音が聞こえました、背後には暗黒を背負っているように見えてなりません。
だから仙蔵は不機嫌そうな苦い顔をしていたのかとようやく先の仙蔵の表情の理由がわかりました、それは確かに顔をしかめたくもなります。
「しょうがない、伊賀崎のところにでも行って慰めてもらうよ」
「――っ!!おい!立花!!」
「あははーいってらっしゃーい」
「止めろ七松!!」

悲しそうな表情で、あ、もちろんあれは演技ですよ、きわめて自然に仙蔵は飼育小屋方向へすたすた歩き始め、八つ当たりされると気づいた留三郎は何とか阻止しようと必死に追いかけようとしましたが後ろから来る小平太の応援に思わず振り返ってツッコミを入れてしまった所為で仙蔵の姿を見失ってしまいました。
留三郎はもしかしたら音が聞こえるんじゃないかと言うくらいさぁーっと顔から血の気を引かせ叫びながらまさに飛ぶようにいなくなってしまい、遠くから懸命な彼の声が聞こえてきました。
「立花ー!!孫兵ー!!どこだー!!」



あ、ちゃんとその日の夜、「大変な目に遭った」留三郎がほうほうの体で部屋に無事戻ってきましたよ。







一言
こういういろんなCPがまじるの好きです。そしてこういう語り口調も好きです。好きなの詰め込んでみました。伊作が誰に話してるかは不明…
某Mさんの長雷作品を拝読してさらにご本人様とのメールで勝手に思いついたコネタです、うぉぉぉ…すみません;;遊びすぎました、めっちゃたのしかったです☆




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