図書室は、本を(いた)めないようにとの配慮から、少し薄暗い。
 背表紙に記されている本の題名を判読できるくらいには明るいので、充分だと思うけれど。

 だけど   

 ふっ、と視界が少し(かげ)る。
 光を遮ったのが、ひとつ年上の委員長の長身だと、予感を覚えて振り返れば、その通りだった。

    人影に遮られれば、本の題名も一気に判別し難くなる。








    げ ば 










 委員長の中在家長次は本の返却をしに来たらしく、雷蔵の頭越しに一番上段の本棚に本を収納した。
 振り仰いだ顔は精悍で。たったひとつ違うだけなのに、どうしてこうも違うのだろうかと溜め息を吐きたくなるほどだ。

 手を止め、長次をじっと見つめる雷蔵を、怪訝(けげん)に思ったのだろう。長次はふと雷蔵に視線を向けてきた。

 視線がかち合う。

 ぶわっ、と。一瞬で雷蔵の頬は熱を帯びる。身体中の血が頭に上ってきたような、そんな錯覚すらある。


 本を収納するために伸ばされていた手が下がってきて、雷蔵の額にそっと触れた。いたわるような気配で。

 大丈夫か、と目顔で問われた。
 ああ、心配してくれたのだ、と胸がじんわり熱くなるとともに、きゅう、と締めつけられていく。
 喜びと、甘く小さな痛みに、雷蔵は微笑む。

「大丈夫です。風邪とか、熱があるとかじゃないですよ」
 図書室にふさわしい抑えめの声で、雷蔵は囁くように長次に告げた。
 長次はいつもの無表情で、何も言わずに雷蔵の腕の中から返却しなければならない本や巻物を奪っていった。
「先輩!」
 雷蔵が少し声を荒げると、眼前に腕が伸ばされてくる。反射的に少し身を引き、肩を震わせてしまう。けれど、伸びてきた腕は雷蔵に危害を加えることはなかった。

 長次の人差し指が、ふに、と雷蔵の唇に触れる。

 雷蔵が目を丸くして長次を見上げれば、ほんの少しだけ、長次が笑ったような気配があった。
 気にするなと言われているようでもあり、もっと別のことを言われているようでもあり。けれど、いずれにせよ、長次は語ってはくれないだろう。

 陽の当たるカウンターで座っていろと低い声が囁いた。
 言い募ろうと思ったけれど、唇に触れる長次の人差し指を意識してしまうと、口を開けず、雷蔵は小さく頷いた。すると、やっと人差し指は雷蔵の唇を解放してくれる。

 カウンターで座ることを大人しく了承した雷蔵を「いい子だ」とでも言う代わりなのか、ぽん、と柔らかく頭を叩かれた。


 長次には敵わないと思う。
 縮まることのない歳の差も、忍者としての腕も、男としての度量も。いろんなものが、この人には敵わない、と思わせる。
 並びたいと強く思いながら、その願いは叶わぬまま、時間を過ごしてきた。

 いまだに子供扱いなのだろうか。
    たったひとつの年の差なのに。

 雷蔵が長次を見上げる視線に、恨みがましい色でも滲んだのだろうか。長次は何かを察したように、今度はほんの少しだけ、苦笑したようだった。


 先ほど、人差し指が塞いだ場所を、今度は、彼の唇が塞いだ。


    …お前が可愛くて仕方がなく、心配している俺は過保護だろうか。

 吐息が唇を掠める。少し不安そうな声は、雷蔵の耳にかすかに届いた。


 この先輩でも不安になることなどあるのだ、と雷蔵は目を丸くした。
 そして、ふわりと笑う。
「本当に大丈夫なんですよ?」
 そうは言っても、長次は納得しようとしないらしく、眉間にかすかに皺を寄せた。

「…わかりました。甘えさせてもらいます」
 苦笑して、雷蔵は長次と本棚の間をすり抜け、カウンターへと足を向けた。
 長次がほっと息を吐いてから、ことん、ことん、と本を棚に返却していく音がする。


 年上の先輩たちに憧れることは多いけれど、並びたいと強く思うのは長次だけだ。
 雷蔵のその気持ちと   長次が雷蔵を可愛くて仕方がないと思う気持ちが   もし、同じ種類、同じ熱を持つものならば。それならば、さきほどの口付けの意味が違ってくる。


 カウンターで大人しくしているか、ちゃんと陽に当たって暖かくしているか、と確認するかのように、長次は本の返却の合間に本棚からカウンターの雷蔵の様子を窺っている。
 そんな長次に微笑を向けながら、雷蔵はふと思った。
 長次の背を追い、並びたいと願ってやまない雷蔵を、長次は時々振り返りつつ、待っていてくれるのではないだろうか、と。

 長次が自分を置いていこうとしていないのことを知って、長次を追い、並びたいと願う気持ちは消えることはなく、むしろ一層強くなった。


 長次が本の返却を終えてカウンターへ戻ってくれば、先ほどの口付けの意味を尋ねてみたいと思う。
 雷蔵は、長次が同じ気持ちでいてくれればいいと願いながら、長次が本を返却していく音に耳を澄ませた。















+++++++
 40万感謝企画で長雷をリクエストしてくださった栞さんに捧げます。

 図書室でほのぼのしてる長雷という、きゅんとくるリクエストを頂いたのですが…ほのぼのできてますでしょうか…っ?
 微糖にはなったんじゃないかなぁと思っているのですが…い、いかがでしょう…っ?
 長雷は好きなCPなのですが、なかなか上手く書けない二人なので、出来が心配なのですが…気に入って頂ければ嬉しいですv
 ごった煮にこっそり置いていた長雷に目を通してくださり、感想も頂けちゃったりして、そして企画で読みたいと言って頂けて! 嬉しかったですvv
 リクエスト、どうもありがとうございました〜vv






Cherry Passionの萩野さまのサイト(リンクから飛べます)が40万打(凄いです!!)を記念したリクエスト企画に便乗して、メインで取り扱ってないというのに図々しくも長雷をリクエストしたのですvvそして更にあつかましくもサイト転載を…もう本当になにもかもお世話になりっぱなしで;;ありがとうございます♪
拝見した瞬間、まさに「こういうのが書きたいっ!」という理想の距離感と関係性である彼らにクリーンヒットし、しばらく悶えていました…!このあと、長次がカウンターに戻ってきたらどうなるんだろう…??ドキドキvv

ともかく、40万打、おめでとうございます!!これからも頑張ってください〜世界の端っこから常にエールを送ってます!
ありがとうございましたー♪








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