大量のモンスターに襲われた時にはまぁ良くある事だった。



「…迷いましたね…」
 昼間だと言うのに葉陰で手元は暗い森でそんな中を一人でモンスターと戦いながらリースは誰にともなく呟く、その呟きを聞き取るものはいない、本人が一人『迷って』いるのだから当然だろう、もし聞いているとすれば対するモンスターや周りの景色のみである。
 たったの三人が大勢のモンスターに襲われるのは冒険者である彼らになら当たり前の事だった、モンスターと追いつ追われつ三人で戦っていればいつかはばらばらになる、元々魔法による攻撃よりも武器による攻撃が主なメンバーだ、誰が誰のサポートと言う訳ではなく暗黙の了解とやらで手分けして敵をなぎ倒していく、だから尚の事仲間とはぐれやすいのだ。
(にしても気配を感じ取れないまではぐれるのは珍しいですね)
 槍を振るい、戦いの女神のごとく敵を倒していくリースは冷静に周りを見定める。モンスターがほとんど居なくなり、余裕が出来たのだ、そろそろ二人を探そうと森を駆け回り始める。


 アマゾネスとして戦いに身を投じている時は自分たちが有利な時と場所で戦っていた、もちろんこんな薄暗い所で戦った事など無かった。しかし国の再興を目指しこの戦いに巻き込まれてからいつ何時モンスターに襲われるか判らない、モンスターだらけの土地へ入り込む事が常で自分たちが不利な状況に立たされ戦う事も何度もあった、その実戦の賜物なのか今いる薄暗い森でも自然と戦えるようになっていた。
「―天空より舞い降りし羽衣よ 我が前に主を現せ―」
 ある程度森を巡り、追いかけてくる敵を一所に纏めた頃、自分がここにいるという目印として、また残りの敵を倒すためにリースは召還魔法を唱えた、その言霊に導かれ青い光とともに出てきたのは光と同じ毛色の猫を従えた戦女神。その勇ましさと神々しさはリースが誇れるものだった。
「お願いします、フレイア…」
 リースの言葉に応えるかのようにフレイアは猫を従えて敵を轢き殺してゆく、その姿が光と共に消えてしまうと再び森は暗闇に襲われた、
「これで合流できると良いのですが…」
 辺りに敵の気配はない、フレイアが残らず消し去ってしまったのだ、リースは安心しながら回復しようと自分の持つアイテムに手を伸ばした時だった。


「――っ!」
 突然の気配に全身で襲われる、思わず鳥肌が立ってしまったほどだ、少し離れた所でモンスターが待ち構えている、目を凝らせばその動きがはっきりと見て取れた。
 体力も魔力も尽きかけているこの状態で再びモンスターと鉢合わせになるとはと溜息をついた瞬間にそれまで遠巻きにしていたモンスター達はリース目掛けて攻撃を仕掛けてきた、アイテムで回復している暇も無い、かといってこのまま戦闘に入れまま違いなくやられる、そう思ったときだった。
「光――?」
 リースの頭上から光が降り、武器である槍に宿った。それは仄かな青白い月の光にも似た光だった。
 その光に目を奪われた所為か一瞬攻撃を忘れてしまった、気づいた時には遅く、モンスターは牙をむけリースに向かっていた。


「ほら、さっさと戦えよ」
 牙を向けたモンスターが消えると同時に正面から声が聞こえる、聞きなれた仲間の声だ。慌てて視線をその声のするほうへ流すとそこには見慣れた赤銅の髪と鎧を身に纏った青年がいた。
「デュランさん!」
「さっきの召還魔法わかったぜ、ありがとうな」
 お陰で合流する事ができたのだ、仲間がいるという心強さからかリースは再び気力を取り戻し、デュランに続いて自分も負けないようにと敵に立ち向かった。
 しばらくは無言で手分けして敵を倒す事に没頭していた二人だったが、やがてある程度の余裕が出来た頃になって、リースはある事に気づく、自分の体力がいつの間にか回復しているのだ。その証拠に先ほどよりもずっと手に力が入る。


「やっと気づいたか」
「これはデュランさんが…?」
 リースの様子に気づいたデュランが声をかける、見ればデュランの武器にも先ほどからリースの武器と同じ光を放っていた。どうやら彼、「ソードマスター」が覚える属性付加の魔法らしい。
 モンスターを倒し続けながらデュランはリースに説明する、戦闘中なのであくまで完結に。
「さっき覚えたばかりのやつだ、『ムーンセイバー』って敵から体力奪って自分が回復する」
 リースもほぼ疲れの無い体で戦いながら応える。
「なるほど、体力回復の技ですか」
「そう、俺アイテム使いきっちまって…」
 回復魔法に頼る事が苦手なデュランはよくアイテムを消費する、回復アイテムだけなら彼が一番消費しているだろう。まさにデュランにはある意味丁度よい『技』なのだ。
 魔法を嫌悪するデュランは今でこそ使うようになったが、最初は全く使おうとせず、リースたちもすぐにはデュランが魔法を使えることなど知らなかったのだ、使えると知った時には『魔法嫌いなやつが魔法を…』と素直に喜びを表すことは出来なかったが。
 そんなデュランは自分の魔法を『技』と表現する、つくづく頑固な男だ。
「助かります」
 短く感謝の気持ちを述べてリースは再びモンスターを倒す事に専念する、残念ながら魔力が残っていないので魔法は使えないが、体力が増えて幾分楽だった、その上デュランもいるので先ほどと違い、戦闘はすぐに片がつきそうだった。


 モンスターを倒す頃にはもう既にムーンセイバーの効力は消えていたが体力は戦闘による怪我もあるがほぼ回復していた、やはりデュランが使う魔法なので効果のある時間はほんの僅かなのである。
「これで終わりだな」
 最後の敵を倒してからデュランは一人呟く、リースは今までの緊張が緩んだのか珍しく座り込んでしまった。
「お疲れさん」
 そんなリースに近づきながらデュランは労いの言葉をかける、そしてリースの怪我の状態を見た。
「…それ位なら回復アイテムでも大丈夫だな、リースは残っていたよな?」
 回復魔法を使えないリースではあるが、性格上デュランよりは計画性があるため使い切る事無く幾つかの回復アイテムなら残っていた。リースは頷きながら自分のアイテム袋を取り出してまんまるドロップで回復する。
 チョコやはちみつ、油はリースでさえも既に使い切ってしまったあとだったのだ、口に含んだ瞬間に体力も元に戻り、怪我もだいぶ良くなった。
「はい、デュランさんも」
 自分が残しておいた分をデュランにも渡す、リースほどではないが、やや切り傷が露出している肌についている。デュランは申し訳なさそうにしながらも正直に受け取り、同じく口に含んだ、元々傷が浅かった所為なのかリースと違い残る事無く消えてしまった。


「そう言やあいつはどこまで戦いに行ったんだか…」
 デュランが最後の仲間の安否をぼやく、普段デュランと仲が良いのか悪いのか判らない親友だ。
「戦闘になると猪の様になりますものね、普段は全く戦闘と縁がなさそうなんですけれど…」
 溜息をつきつつ、そう言いながらリースもデュラン同様に仲間を心配する。
「まぁ、お前が召還魔法使ったからそれを目印に戻ってくるだろ」
「…デュランさん」
「? なんだ?」
 デュランの気楽な言動にリースははっとしてある一つの可能性に思い至る。デュランはそれをさほど重要視していないらしくいつもどおりの様子でリースに振り向き続きを催促する。
「あの…もしかして向こうもこちらが来るのを待っているんじゃ…」
 目印があったからと言って彼がそこに来るとも限らない、むしろそこまで気が回らず『あそこで今戦っているんだ』としか思っていないのかもしれないのだ、その事にデュランもようやく気づいたのかリースと顔を見合わせる。
「……」
「……」
 あり得ない事ではない、二人は休めていた体を叱咤し、立ち上がる。
「急ぐぞ、ホラ掴まれ」
「ありがとうございます」
 デュランより消耗が激しいリースは礼を言いながらその手に掴まって立ち上がる。
「?」
 繋がったままの手はいっこうに離れる様子が無い、リースが不思議そうにデュランの方へ顔を向けた瞬間、額に『何か』の気配を感じた。
 それはモンスターなどの禍々しい気配などではなく、れっきとした人間の優しい気配。
 リースの額にデュランは唇を寄せる。ほんの少しだけ。それだけで十分だからだ。
「さ、行くぞ」
 悪戯めいた、しかし穏やかな『彼らしくない』笑みで手は繋いだまま森を駆け抜ける、どこに仲間がいるのか判っているのだろうか?おそらく当てずっぽうだろう。
 そんなデュランに手を引かれたままのリースは動揺を隠せないままに反撃を開始する、そうでもしないとこの顔の火照りは冷めそうに無い。


「闇のクラスに進んでからある方向だけ異様に自己主張が激しくないですか?!」

「お前が言ってる小難しい事なんてわかるヤツいねーだろ」

「いーえ!貴方が判ろうとしないだけです!」

「わかんねぇって、ためしに同じ事アイツにも言ってみろよ」

「わからないでしょうけど、貴方と違って理解しようと努力はするはずです!」



この二人の怒鳴り声が目印となって残る三人目の仲間と無事合流できたのは言うまでも無い。



















栞語録
黒金さまへ11111番キリリク『追い詰められたリースの所にデュランが助けに入る』です。クラスも指定いただき、折角だから〜とそのクラスにしかできない事も盛り込んでみました。ラヴは低いですが、薄味が好みの管理人なので笑って勘弁してやってください…
では、持ち帰りは黒金さまのみとさせていただきます。キリリクありがとうございました。



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