ヒラヒラ手のヒラ
―――もし、
この手がもう少し大きかったら―――…

――届いたかもしれない
        守れたかもしれない――
そこは大きな港町だった、絶えず船は行き交い、人々は交差する。少年は少女を探す、腰より長い金髪なんてそうはいない、案の定、すぐに少女は見つかった。
「リース!」
声をかけるが後姿は振り向かない、海を見てぼんやりと考え事をしている様だ。ため息をつき少女に近づこうと少年は駆け寄ろうとした。

チャリーン

「あっ」
しまった、という様に少年は顔をしかめる、先ほど買ったばかりのコインを落としてしまったのだ、
(あ〜あ、ありゃリースじゃないと取れねーや)
コインは積荷の狭い隙間に挟まった、少年の手の大きさではまず取れない。金髪の少女に頼むしかできないのだ。用事が更に増えて少年は少女に近づいた。

いつもなら誰かが後ろに立っただけでも機敏に反応して武器を取るのに今は少年に向かって武器を構えようともしない。よほど深く考え事をしているのだろう。金髪によく似合う蒼い眼は手元にいっているのに何故かずっと遠くを見ている様にも見えた。
「リース?どうした?」
いよいよ様子がおかしいと思い少年は訝しげに少女の顔を横からのぞく、少女は今ようやく気付いたのかはっと眼を見開き少年に視線を移した。
「デュラン…」
少女は驚いたようだったが、すぐに少年の質問を返した。
「いいえ、何でもありませんわ」
「んな訳ねーだろ」

少年は少女の答えをあっさり返す、この少女は自分が抱えている闇は絶対他人に話さない、身の上は話してくれたが、それに対しての自分の感情は話さなかった。全て己で抱え込むのだ。出会ってまだほんの少しだが、少年はこの少女の性格をだんだん理解していた、こうでも言って口を割らせないとけして少女は話さない、何しろ不平不満や愚痴さえも言わないのだ。

少女は軽く頷いた、話してくれる気になったらしい。少年はほっとした、これでこの少女が少しでも悩みから開放されたらいい。そう思っていた。
「…この手がもう少し…もう少し大きかったらな、と思ってました」
そう言って少女は己の手を見る、片方の中指には篭手を固定する金具がついていなかった、先ほどこの港町に来る途中でモンスターと戦い、それで壊したのだ。

少年はそんなことかとため息をつきかけたが慌てて止めた、本人にとってはとても重要な事なのだ。
「何言ってんだよ、リースの手はそのままで十分だ」
少女は驚いたのかすこしだけまばたきをした、少年は続ける、といっても少年の場合、思考回路は言語中枢と直結している、つまり思った事をひょいひょい口に出すのだ、しかし何故か少年の場合一言もよけいではないから不思議だ。
「たとえばー―…あそこにはまったコインを取る時とか、俺じゃ取れねぇよ」
そう言って先ほど転がり隙間にはまったコインを指差す、少女は目を細めてコインを確認しようとしたが、夕日が反射してコインが光っていたので、すぐにはまってる事が分ったようだ。

「取って欲しいなら言って下されば…」
そういいながら二人は積荷の近くに行き、少女は隙間に挟まったコインを取り出す、その隙間は少女の手でもぎりぎり入るほどの隙間だった。少女は髪をかき上げて少年に拾ったコインを差し出す。少年は右手を広げてそれを受け取った。
「ありがとうな」
少年は少女に笑いかけた、

「こうやって礼言われんのは手の大きさ関係ないだろう?」
コインを掴み、空へ抛る、夕日が反射してまた光った。
「そうですね…」
少女は笑って応えたが、きっとまだ納得していないと思う、原因はわかっていた。
「無理して俺らと対等にならなくていいから…」
少女はその言葉を聴き悲しそうな眼をして俯いた。

少女は若年ながらもアマゾネス軍団長を務めていた、同年代の少女たちと比べてこの少女は強いほうだ、だがしかし、その強さは仲間となった少年たちには遠くおよばなかった、間近で自分よりも強い少年達が一緒に戦う、それは少女にとってつらい事だろう、

少女の城は敵の手に落ちた、少女はそれを自分の所為だと抱え込んでいるに違いない、それはその少女の気質を見れば明らかだった。自分より強い少年たちの戦いを見て自分も少年たちほど強かったらと、おそらくはそれで悩んでいたのだろう。

「ってのはリースの考えだろう?俺的に言い直すと――」
少女は顔を上げた、少年は言った

「十分俺らと対等だよ、そう思う」

少女の視線はうろついた、「なぜそうおもう」と今にも言いそうだ。夕日は先ほどより沈み、お互いの顔はだだん不鮮明になってくる。それでもまだお互いの表情は見て取れた。
「確かに俺らと比べて力は劣るけど、その分冷静に弱点着くだろう?俺らじゃあんな上手く敵の弱点なんてつけない」
実際少年の言う事は当たっていた、少年たちの戦い方はとにかく数打てば当たる、である、それでも敵を倒せるのは野性的闘争心や攻撃力、体力があるからだ、その分消費が激しいのかエンゲル係数は上がる一方だ。少女は二人とは違う戦い方だった、ともかく敵の弱点を冷静に突く、攻撃回数が少ないまま敵を倒せるので消費は少ない、非常に「戦う」体質なのだ。

少年は昔どこかで聞いた事を思い出しかけていた、思い出せないままそれを口にする。
「なんっつたっけ?…あ〜…ほら、どっか悪いと別の感覚が異様発達するってヤツ」
身振り手振りで一生懸命説明する少年を見て少女は少年の言いたい事の意味が分った。要するに、たとえば盲目の人が耳やはなが良くきく事を少年は言おうとしているのだ。

そしてそれは少女の父親の事でもあった。

少女の父親は盲目だった、しかし、風による気配などは誰よりも早く察知する事ができた、少女はそんな父が誇りだった。少女も父親の血を引く者だ、きっと、足りない事は別のもので補う事をもっとも得意としている血だろう。

「…自分に合った強さを求めればいいんですね…」

少年は満足気に頷いた。しかし、それもつかの間、少年は思い出したように手をぽんと叩く、先ほど買ったアイテムを入れた袋の中から何かを取り出した。少年の手のひらに入るほどの大きさのようだ。
「リース、ちょっと手ぇ出せ」
「え…?はい…」
どちらかとは言わなかったので少女は両手を差し出す、少年はその内片方の手を取った、それは壊れた篭手を付けている手だった。

「はいこれ」

カチッ

軽い金属音がした、少女は少年が掴んでいる自分の手を見た。
「あ…これ…!」
少女は驚いて眼を見開く、この少年には驚かされっぱなしだ。中指に壊れた金具と同じ物が付いていた。それは指輪のように見えたが、作りは少女が一番良く知っている。篭手の先から出てる紐で中指を結びつけ、それを更に金具で挟んで固定するのだ。

少女は少し肩を落としたが、少年はそれに気付かないようだった、
「さっきバトル中に壊したろ?片方だけじゃ変だから買ってきた」
サイズがあって良かった、と安心しきった表情で少女を見る。日が暮れてその笑顔は少女には見えなかったけれど、少女は胸が高鳴ったのを自覚した、多分買ってきてもらって嬉しいのだろうと思う。買ってきた金具を少女は大事そうに触れる。

「…やっぱり、私、いいです…!」
顔が火照る、冷たかった金具は少女の体温で暖かくなりつつある。少女の声に少年は不思議そうな目で反応した。
「手…このままで、いいです…」
最後の方はこえが小さくなり聞き取りにくかったが、少女は両手を胸の前に置き、少年に言葉が伝わるように言い直した。
「さっきまで手ぇひとつであんなに落ち込んでたのにな」

「ほら、さっさと行こう、ケヴィンが宿で待っている」

少年は少女の手を掴んだ、

どちらも顔は火照っていた、

どちらも鼓動は早かった、

どちらもとても幸せそうに歩いてる。










――手はもう大きくなんて無くてもいい、だって…
 
これが入らなくなるのは嫌ですからね――














後書きです。

初小説はこれ、これは実は今製作中のデュラリ本にある話を小説化したものです、漫画のほうはリース視点でしたが、小説の方はデュランとリース両方の視点です。あえて科白にしか名前を出さなかったんですがどうでしょうね?

では、これからちょくちょく増やしますね




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