Masked ball





「…疲れましたわね…」
白いふんわりしたドレスをひらひらさせてリースは呟いた、先ほどまでおそらく会場内の男性全員ではないかと言うほどの人数に声をかけられしぶしぶ相手をしていたのだ、


今日は英雄王主催の仮面舞踏会だ、平和になった事で身分などお構い無しにパーティを開きましょうと言う事なのだろう、出入りが自由なので町からも大勢の人々がやってくる、警備は大変そうだと少々同情した。リースはローラントからの代表でライザ達とともに英雄王のいる地、フォルセナへやってきたのだ。


ローラントの他の代表者達とばらばらに来た所為かお供のライザくらいしか見知った人物はいない、お城のこの騒ぎで城下町さえも賑やかになっている、舞踏会中は物騒にも城への出入りが自由なので少し町の方へ行ってみようとしてお供のライザの姿を探す、あいにく、ライザの姿が見えなかったが、舞踏会は後数時間は行われるからその間に帰ってこようと思い、リースはこっそりとホールから外へと抜け出した。


「…どこに行けば出られるのかしら…?」
ホールに面した中庭を通って辺りを見回す。それにしても先ほどのリースに声をかけてくる人物の多さと言ったら、正直リースは何故そんなに声をかけられているのかわからなかった、原因は波打つ金の髪が人を惹き付ける所為だが、本人は全く自覚していない。おそらくあんなにたくさんの異性と話すのはもうこれが最初で最後だろうと安心しきっていると人の声が聞こえた。

『いっそ隕石でも落ちてくれれば…』

なんとも物騒で面白い事を言う声だろうと興味を持ち、声のするほうへ歩いていく、そこは東屋で一人の少年が座ってぶつぶつ言っていた。


「貴方もお疲れですか?」
声をかけられて驚いたらしく少年は振り返った、当たり前だが仮面を被っているので顔はわからない、盛装をしてはいるが、少年の雰囲気はどこと無くこの場には不似合いだった。


「ああ、お前もか?」
仮面でぐぐもった声の少年のぞんざいな口調にリースはしばし驚く、今まで声をかけてきたものは皆、リースの身分を知らないのでもし上だったら…と用心して敬語で話しかけてきたのだ。
「ええ、私、ああいう所は少々苦手なんです」
少し苦笑しつつリースは少年の声に応えた、しかし、少年はリースの口調を他の人間と同じ用心の上での敬語と勘違いしたらしい。
「おまえ、普通に話してもいいんだぞ?」
その言葉がリースを楽にさせてくれたので少年の正面へと回って空いている場所に座った、
「すみません、いつもこの話し方で通していますので」
と、そういってリースは相手に自分が敬語をいつも使っている事を伝えた、少年自身あんな口調だからにわかには信じられないのだろう、きっと仮面の下で驚いているに違いない。


座った事で疲れを自覚したのかため息をついてリースは呟いた。
「明日もあるんですよね」
少年はそのリースの呟きを聞いて軽くうなづく、一瞬だが、少年の雰囲気が柔らかくなった、王女として、軍のリーダーとして、相手の雰囲気を読むのは得意だった、
「うんざりだけど、同志がいると心強いな」
「同志…ですか?」


いきなり何を言うのだろうと呆気にとられて思わず聞き返す、いつの間に同志になったのだろうといぶかしげに少年を見るが、仮面を被っていたおかげか不審には思われなかったようだ。
「お前もこういうところ苦手なんだろ?俺も苦手なんだよ」
「ああ、ええ、そうですね、確かに心強いですわ」
そういう意味かと納得してリースはうなづく、誰しも苦手なものはある、苦手な物が同じだと妙に安心するものだ。


しばらく取り留めの無い話をする、ホールで話していた人たちよりもずっと気楽に話せた事に驚いた。そうして一時を回った頃、少年が明日の午前中は警備の仕事だと言った席を立った、
「そんじゃ、悪いけど一足先に帰らしてもらう」
「今日の舞踏会に出席の代わりに明日の午前中に警備の仕事とは大変ですね」
あの人数だ、午前中でも堪えるだろう、リースは大変そうだと彼の仕事に同情する、
「明日も来るのか?」
ふと思いついたのだろう、振り返って少年はリースに聞いた、
「ええ、呼ばれているのですから、出席はしないと行けませんわ」
「そっか」
「また、明日会えるといいですね」
そう言って二人は別れた。


翌日、昨日は忙しそうだったので控えていた英雄王と対面した。
「ローラント国より良くぞ参ったな」
優しい声に安堵しながらリースは事前に考えていた言葉を述べる。
「申し訳ありません、昨日は王が他の者との対面によりお疲れと判断したため今日まで対面が延びてしまいました」
昨日、リースは国務で舞踏会ぎりぎりにやってきたのだ、挨拶する暇もなかった。
「いやいや、心遣い感謝する」
その言葉で一応一段落付き、後は国政の事やらなにやらの相談であっという間に午後になりそうだった、
「では、失礼します」
「今夜も楽しまれると良いな」
謁見の間から出てしばらく歩くと兵士の声が聞こえた、警備兵らしい、

 『おい、デュランのやつ、昨日の舞踏会に出たんだって?』
 『そうらしいぞ、さすが聖剣の勇者だよな』
 『俺達は見張りだって言うのにな』

堪えた笑いまで聞こえてしまった、隣にいるライザは『無礼な兵ですね』と愚痴を言うが、リースにはどうでもよかった。

あの人が…あの舞踏会にいた…?!

兵士達の会話にリースは自分の殻に引きこもったように考え事をし始める、いつもの事だと慣れたライザは何も話しかけなかった。
兵士達が言っていた『デュラン』と言う名をリースは二度耳にした事があった。
一度目はローラント奪還の際、
フェアリーにとり憑かれていたという彼は仲間とともにリースの手助けをしてくれた。自分が頼み込んだとおり見事敵を倒してくれた人達、
二度目は彼らが聖剣を引き抜き、竜帝を倒した、と言う吉報が世界中を駆け巡った時、あの時、自分の事のようにリースは嬉しかったのを覚えている、


できる事ならもう一度逢いたかった人。


ここに来たのももしかしたら逢えるかもしれないと言う一縷の望み。


  「てめーらさっさとどっかいって遊んでこい!!」


遠くから聞こえた声はリースをはっとさせる、聞き覚えのある声に、どうしても出逢いたい衝動に駆られる。
「リース様、危険ですのでどうか…!」
彼女の悲痛な懇願に躊躇する、槍を持てば無敵状態のリースだが今は丸腰だ、自分も冷静になり、ライザの言葉を受け入れてその場を後にした。心は今すぐにでも駆け出したいと言うままで。



どこかに彼がいるという期待で胸を膨らませてリースはその夜の舞踏会にも参加した、しかし、見当たらず、リースは悲痛な面持ちを仮面の下に隠して昨日の東屋へ向かった、幸い誰もいなかったらしく、リースは昨日少年がいた所に座った、この場所はホールから来るのに最も座りやすい場所だとリースは心の中で判断する。ふと、人の気配でリースは振り返った、そこには昨日の少年、立ち上がってリースは声をかける。
「今晩は、今日は私の勝ちですね」
勝ち負けなど関係ないが、何となく軽い気持ちで言ってみる、
「あー…ああ、俺は負けたようだな」
リースの言葉に呆気に取られて少年はリースに合わせてわざわざ応えてくれた、少年は昨日と同じ所に座る、リースは先ほどまで座っていたので譲るような形で少年の隣に座った。


「気になる方…ですか」
今日の午前中の彼の仕事の事を労い、そのままその時起こった話へと話題がとんだ。昔、旅をしていた時に出逢った人を今でも思っているのだと仲間にからかわれたのだと言う。
「ああ、まぁ、そう言われると助かる表現だな」
気恥ずかしかったのか少年はそう言ってほっとしたようだ、そう言われた方が安心する事をリース自身も知っているからだ。肩をすくめて微笑みながら頷いた。
「私も、そんな方がいらっしゃいます」
その答えに少年は驚いた雰囲気を持つ、
「貴方のように会ったのは一度きりです」
少し思い出したのかリースは低い声で呟いた、しかし、すぐにそれは間違いだと気づき訂正する。
「…いえ、2…3度ですねお会いするのは」
そう言って少年の目を見る、朝焼けの紫色の目がリースの視界に入ってきた。
「…解ってんのか?」
少年が挑戦するような口調でリースを威嚇する、リースはそれに応じた。答えはもう出ていたから。
「ええ、わかっていますわ」



「デュランさん」
「リース」



二人が仮面を外して相手の名を言うのはほぼ同時だった、


現れた顔は昔一度だけ見た顔、


そして、お互い惹かれた人物、


「…久し振り…だな?」
「ええ、本当に」
仮面を持ってお互い顔を見合わせる、数ヶ月ぶりになるであろう対面はそれほど緊張した空気ではなかった。


「いつ私だと?」
にこやかな笑顔でリースは少年、デュランに聞いた。
「午前中、さっき話た仲間がやってくる直前に空を見て」
「あんたの目、綺麗な空の色と同じだもんな」
目の色を覚えていてくれた事はリースにとってとても嬉しかった。逆にどうして気づいたか問われてリースは答える。
「…今日、英雄王様とご対面しまして、その帰りに兵士から盗み聞きを」
断片的な会話だったが、おかげで昨日ここで話をした少年とデュランは符合する事に気づいた。
「昨日、参加した方々全員と言葉を交わしましたが、貴方らしき人はいなかったので」
だからこそ一致したとも言える、デュランと会話せずとも消去法でいつかは行き着いた。


「さっさとつけねぇとルール違反だな」
仮面舞踏会なのだから舞踏会中は仮面を外さないのがルールだ、はっとしてリースは慌てて仮面を被ろうとする、
「でも…人の気配ないし、別に良いか」
からんと乾いた音がして仮面が落ちる、それを見たリースも仮面を脇に置いた、


お互い相手に寄りかかり、いつの間にかつないだ手は離れなくて、離せなくて。

「…ずっと、会いたかったです」

恋焦がれる気持ちは相手を好きなんだと再確認させる。

「俺も、それこそ仲間にからかわれるくらいにな」

今度は離れたくなくてずっと静かに手をつないでいた。













栞語録
リース視点でお届けです、…最初デュラン視点だけのつもりだったんですが、栞サン、リース視点の話をまだ書いてない事に気づきちょっと書いてみました(苦笑)
要するにパーティとして一緒に旅をしなくてもいつかは出逢ってラブラブになって欲しいという私の願望です(爆死)







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