目を塞ぐ
何も見えない
耳を塞ぐ
何も聴こえない
口を塞ぐ
何も伝えられない
『そして私は彼を無視する』
「リース?大丈夫か?」
光の貴方が闇の私に尋ねる。きっと先ほどクラスチェンジしたので気分が高揚しているのだろう、クラスチェンジは彼の目標でもあったからだ。でなければ決して私に投げかけられる事のなかった言葉。
「さっきクラスチェンジしてからおまえ変だぞ?」
変なのは貴方の方です、さっきまでの私の変化に気づきもしなかったのに…今更気づかれても困ります。気づかれたくなかったから私は闇に堕ちたのですから。だから、私に気づかないでください。
お願いだから…
「…大丈夫です」
私は笑顔と言う名の壁を造って彼を押し返した。私がそういえば向こうも強く出る事はない、何せ今までがそうだったのだから。
「そんな真っ青な顔でどこが大丈夫なんだ!」
やっぱりおかしいのは貴方の方ですよ、だって貴方は私にこんなに食って掛かってこなかった。きっと私は貴方に向けて驚きの表情をしているに違いない、貴方がここまで強く出る事はなかったのに今日は人が変わったかのように心配する所に驚いたのと、もう一つ、自分がそんなに真っ青になっている事に言われて初めて気づいた。
『多分…リースは闇にクラスチェンジしたからね、少し闇の波動に引っ張られているのかも…』
彼の頭を通じて私にも伝わるのは彼に取り付いているフェアリーの声。私が闇に引っ張られている?いつの間にそんな事になっていたのだろうか?自覚は全くといって良いほどなかった。
「大丈夫ですわ、デュラン」
嗚呼、言いたくなかった貴方の名前。貴方は気づいていただろうか?私が貴方の名前を呼ぶのは久々だったという事に。同時にようやく貴方の名前が呼べるようになってほっとした、今まで呼ぼうと思っても呼べなかったものだったから。
私はそんな彼らを無視して部屋へと戻る、彼に指摘されたとおり顔が真っ青な事を自覚したからだ。部屋に戻って、ベッドに身を投げて、そこで私は一人思う。
ほら、大丈夫だった…と
闇に見初められ、目を塞がれ、耳を遮られ、口を閉じられた。それが今の私。大丈夫、彼のことを何とも思えていない、これが結果。
「…良かった…」
何がよかったのか、何がよいのかなど判らないがこれが私には良い事にしか思えなかった。
なにも見えず、何も聴こえず、何も言えず…それが私にとって最良の対策だった。
そうして私は『それ』に蓋をする。…厳重に…
捨てれば良いのに捨てられないからせめて厳重にもう見ることのないように蓋をする、封印して私は私に戻る。今までが異常だったのだ、彼を見るたび心が揺れる。私が私じゃなくなる感覚がする。見えてるのに聞こえているのに話せるのにどこか気持ちが不安定になる。
今は前よりもずっと安定している、これなら大丈夫だ。もう彼に対し心が揺らぐ事はない。
「……」
フェアリーの言うとおり闇に引っ張られているのは本当かもしれない。ベッドに身を投げ出したは良いものの体が動けと疼く、横になっている場合ではない、戦え、と私の頭に響く声。
私はそれに逆らって一人また溜息をつく、戦いには休息だって必要だ、今は休むべきで戦うのはそれからだ。
「リース?」
ノックの音と共に彼の声が聞こえた、塞いだ耳に彼の声は聞こえない、そのお陰で心は揺らがなかった。
「はい?」
ベッドに横になったまま返事をする、小さな声だったのにドアの向こうまでちゃんと聞こえたらしく、彼はその声を鍵と思いドアを開いた。茶色いタテガミを見ても閉じた目にはなにも見えない。
「やっぱり辛いか?」
心配そうに彼が言葉を発する、それが私を心配する言葉だと気づくのに僅かに時間がかかった。私は視線だけ彼へと動かしゆっくりと頷く。
心配してくれるのは正直嬉しい……でもどうしてもっと早くにそうしてくれなかったのだろう?
私が闇に見初められる前に。
闇に染まればこの恋心は消えてなくなってしまうだろうと、そう思って闇にクラスチェンジした、仲間の二人は私が光に進むと思っていたらしくひどく驚いていたのを覚えている、でもこんな理由は私らしくない上、私情を挟んでいるのでみんなに言える訳がなかった。
対して彼はといえば強さを願っているはずなのに守る力も欲した。『なんのために――…?』とは聞けなかった。きっと彼にも私同様思うところがあるのかもしれない、下手につついて私もしゃべらざるをえなくなってしまっては困るので黙って彼の進路を受け入れた。
どうしたって同じだけれども正反対なのだ。
『同じ』だから惹かれた。
私の恋心はひどく単純でわかりやすかった、だから封じるのだって楽なはずだ。彼とは『同じ』人種、それだけだったのだ、もう何も思う事はない。
「少し休めば楽になれます」
私は短く答える、こう答えれば多分退室してくれるだろう、希望的観測だが、その希望にすがるしかない。なにしろ彼は光に進んでから人柄が変わって行動が把握できなくなってしまったのだから。
「…そうか…」
彼は短く答える、希望的観測はやはり希望でしかなかったようで、彼は部屋に隅にある椅子を引き寄せて私のベッド際に移動させて座った。様子を見るつもりなんだろうか?
「……」
「……」
お互い沈黙が続く、私は話せるほどではなかったし、彼もそんな私につられて話しにくい様子だった。
「リースは…何故闇に?」
やはり彼も気にしていたようだ、あの時は適当に誤魔化していたけれどもう無理らしい。
「デュランこそ、何故?」
これは本当に思ったことだった、
「…俺が先に言わなくちゃなんねぇか…?」
「そうですよ、聞いたんですからね」
こんな軽いやり取りは久々だと思う、彼に見えないように少しだけ微笑んで彼の答えを待つ。
「…守りたいものがあったから…」
保守的なものを欲するのは大抵そんな理由だ、それは私もうすうす感じていた、でも彼本人の言葉でそれは確信に変わる。
「国ですか?それともご家族?」
彼は粗野だが愛国心溢れる人間だ、それに今までの会話に良く育ての親である伯母と妹が出てくる、家族も大切なものなのだろう。彼から答えがないのでもしかしたら英雄王かもしれないし自分の名誉や誇りかもしれないと思い付け足そうとした時だった。
「…おまえだよ、リース…」
「………」
あまりの言葉に絶句する、『え?』などと聞き返す余裕なんて消えてしまった、彼の守りたいものは国でも家族でもなく他でもない私だった――…?
「お前自分の身を省みずよく無茶するだろう?だからその分俺が守ってやろうと思って…」
なんで?
「それがなんでか俺にも良くわからなかったんだ」
どうして?
「でも、さっき、クラスチェンジしてようやく気づいた…」
せっかく…折角…!!
折角封じ込めたのに!もう二度と開く事ないように閉じたのに!!
今更それを言ってしまうのですか?
今更それを聞いてしまうのですか?
もう私の恋心は…
「リース?」
もう貴方への恋心は…
取り出せなくなってしまったのに…
……
栞語録
うちの光×闇はこんな感じ…
リースは自分の恋に気づいてて、それが嫌だったから闇へ。
デュランは気づかないまま光に、そして気づく。
そんなすれ違い。
短いなぁ…
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