闇月

「ルナ?」
シェイドはルナの様子が見えない事に気づく、もしや塔の中で迷っているのではないだろうかとふと心配になり塔を慎重に上っていく、結局、最上階までルナの姿は見えなかった。
「…?どこに…」
行ったのだろうと言う前にシェイドはすっかり『あの事』を忘れていた事に気づく、どうやら船になって放浪してる間に耄碌したらしい。最上階の一番奥の部屋、かつて聖剣の勇者が月の神獣と戦ったところだ、その扉の前まで来て躊躇うように立ち止まる、しかし、シェイドはその一瞬の躊躇の次の瞬間に扉に手をかけて静かに開いた。

今日は満月。

羽を生やした少女は月光の光を浴びて妖しく光る、目も虚ろでどこか焦点が合わない、しかし、綺麗だった。
ルナは月の精霊だ、食事は摂らず、こうして月の光を浴びて力を蓄える、シェイドの闇を好んで住まう事と似たような事だ。
やがてルナは入ってきたシェイドの存在に気づく、
「やーだー!何で入ってきたのぉ?!」
顔を真っ赤にしてしゃがみこむルナに先ほどの神秘的な雰囲気はかけらも残っていない、
「すまない、姿が見えなかったから探していた」
「で、わたしがご飯中なの思い出してここにやってきたのね?」
ここは部屋と言うよりは天井がないので屋上に近い、そして森で一番高い塔を遮るものはなく、いつでも明るい月明かりが降り注いでいる、月の光とはいえ光は光、シェイドはここが苦手で滅多に来ない場所だった。
「相変わらず察しが良いな」
シェイドはルナの方へと近づく、今なら雲がかかり月が隠れているからあまり苦しくはない、いまだしゃがみ込んでいるルナに手を差し伸べて立たせるとそのまま手を引き屋上から去る、二人が屋上から消えて、まるでそれを待っていたかのように再び月は姿を現した。

「でも、探してくれていたなんて嬉しいな〜」
うきうきと階段を下りながらルナが言う、シェイドは相変わらず鈍いのかルナが何故嬉しいのか理解できないようだ、眉間に皺を寄せている。
「その顔は理解できてないわね?」
振り返り、目ざとくシェイドの表情を読んだルナが同じように眉間に皺を寄せてシェイドに問い詰める、
「私は心配しただけだが…?」
「だから、それが嬉しいんだよっ!」
ますます不可解になり首をかしげるシェイドを後ろにルナはどんどん塔を下っていく、やがて塔を出るとそこに一人の少女が立っていた。シェイドも追いついてその少女に気づく、
「誰だ?」
その少女はルナとそっくりな風貌で一回り小さかった、表情は険しく、こちらを睨んでいる様にも見える、
「ねぇ、名前は?」
用心してその場から動かないシェイドとは反対に無防備にもルナは少女に近づく、シェイドは止めようとしたが、ルナに答えた少女が無害そうなので自分のそばへ近寄る。
「あたしはアウラ、金の精霊」
おそらく、金属的な金の精霊なのだろう、しかしこの世界に金をつかさどる精霊はいない、
「わたしはルナ、月の精霊だよ、向こうの黒いのはシェイドって闇の精霊」
「知ってるわ、貴女以外の精霊ならあたしの世界にいたもの」
『あたしの世界』と表現したのだからこの世界以外からやってきてしまったのだろう、貴女とルナを指差しながらアウラは答える、なぜアウラの世界にはルナがいないのだろうかと不思議に思いそれを口にしようとすると、光とともに幼い少年が一人現れた、光の精霊ウィル・オ・ウィスプだ。
「こんにちはーッス!」
明るい口調で場を和ませる登場に3人はそろってウィスプの方へ視線を投げる、
「ルナちゃん、貸していた本なんッスけど…」
ウィスプは幼い姿をしているが、物知りで蔵書量も半端ではない、ルナはしょっちゅう本を借りていた。
「あー!忘れてた!ゴメンネ、今取りに行く」
そういうなりルナは塔の中へ入っていってしまった、残ったのは光と闇と金、
「シェイドさん、この子は?」
「…金の精霊アウラだ、先ほどここに現れた」
シェイドはウィスプが苦手だ、しかし反対にウィスプの方は苦手意識がないのでよく話しかけられる、ルナから見れば『とても相性が悪いようには見えないわ』だそうだ、目線を逸らしながらウィスプの問いに最小限に答えると興味を持ったのかルナと同じように警戒せずにアウラに近づく、
「こんにちはッス!僕はウィル・オ・ウィスプッス!」
明るく笑顔で自己紹介するが、アウラは無反応だった、
「無愛想なところがシェイドさんに似てるっすね〜」
「貴様…!」
さらっと笑顔で悪気なく悪意なく失言を吐く、額に青筋を浮かべたのはシェイドだけだ、ウィスプはときどき思った事を笑顔で言う事がある、たとえそれが悪い事でも良い事でもお構いなしだ。
「ごめんね!ウィスプ君」
息を切らしてルナが塔から出てくる、片手には本を持ったままだ、よほど急いで足元を見る余裕がなかったのだろう、塔を出てすぐの階段でルナは足を滑らせる、
「キャ…!」
『ルナ!』
シェイドが叫ぶや否やルナの動きがぴたりと止まる、シェイド以外の3人はその光景に目を見張るばかりだ、やがて仕掛けに気づいたウィスプがなるほどと手を打つ、
「ルナちゃんの影を縫い付けたんっスね?」
ウィスプの答えにシェイドはうなづきながら階段上っていく、ルナの倒れかけている姿勢を支えてもう一度立たせなおすと金縛りが解けたかのようにルナは再び動けるようになった。
「どういう事?」
動揺してルナは傍にいるシェイドと階段のふもとにいるウィスプを交互に見比べながら説明を求めている。
「シェイドさんは闇を司ってるっすよ、だから影なんかも止めたりできるわけで…」
「影をその場に縫いつけ動けないようにした、それだけだ」
ウィスプの説明を長くなると察したのかシェイドは簡潔に一言でまとめウィスプの言葉を遮ってルナに説明する、
「そっか、シェイドにもそんな凄い特技があったんだね」
ウィスプと同じようにさらりと悪意なく失言を吐く、子供だと言う事も考慮して初めて許される言葉だ、ルナは階段を下りてウィスプに本を返した。

「ところで、アウラちゃんって何でここに?」
ルナの意識はアウラへと移る、その疑問に答えたのはウィスプだった、
「金の精霊と月の精霊は似たような位置にいるんすよ、木と反対属性だったり、だからルナちゃんの所に曳かれたんじゃないっすか?」
物知りなだけあって答えも簡単に出てくるらしい、ルナは感嘆してため息をつく、
「たぶん、そうだと思う」
つぶやいたのはなんとそれまで何も話さなかったアウラだった、
「でもなんでここにきちゃったのかわかんない…」
「じゃー僕のところで調べるといいっすよ」
無邪気な提案にアウラは首をかしげる、
「そうだよね、ウィスプ君のところ、難しい本がたくさんだから何かわかるかも!」
パンと両手を打ってルナもそれに賛成する、
「じゃぁ、そうするわ、ありがとう」
優柔不断とは程遠いほどの即断即決振りでアウラはウィスプの所へ行こうとする、
「またね、アウラちゃん!」
ウィスプにつれられてアウラは去っていった、残ったのはいつもの二人組、
「行ってしまったな」
見送りが終わると途端に何事もなかったかのようにシェイドは塔の方へ足を向ける、
「待ってシェイド」
ルナもなぜかそれに続く、階段を上り始めていると言うのにお構いなしにシェイドの服のすそを掴む、危うく転ぶところを堪えて後ろへ振り返った。
「あのね…さっき、助けてくれてありがとう!」
少しだけほほを染めて笑顔で言い忘れたお礼を今更言い出す、
「あそこで仲間を見放すほど冷血漢でもないからな」
シェイドが再び階段を上ろうとするとルナも再び服のすそを思い切り引っ張る、
「せっかくお礼言ったのにー!それだけってなにー?!」
どうやらルナの癇に障るようなことをしたらしい、しかしシェイドは思い辺りがなかった、心当たりがないのでそのまま行こうとするがルナがすそを掴んで離さない、
「離せぇぇぇ…!」
「やぁだぁ〜!!」
奇妙な引っ張り合いはその後しばらく続いたと言う…






おまけ
「シェイドさん変わったっすね〜」
「どこが…?」
「アウラちゃんは知らないだろうけど、もっと怖くて近寄りがたい雰囲気だったんすよ」
「へぇ…」
「それが今日『貴様…』ってツッコミが入って…あれもルナちゃんが傍にいるからっすかね〜?」
「…ふぅん、あたしには関係ないわ」
「…まさにそんな感じだったっすよ、昔のシェイドさん」






栞語録
精霊擬人化〜vv闇v月はやっぱ大好きです〜vv
で、話の都合でなんかシェイドさんに特殊能力できちゃってますが…まぁそれは私も知らなかった新たなに発覚した能力って事で…;;
なにげに光v金も…(笑)







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