風木



『名前のないもの』















きっと。もうすぐ。












「手紙ダスー!」
のんびりと風に乗ってやってきた彼の姿を見つけ、ドリアードは笑顔で迎える。
彼はいつも、この陽が傾く少し前にやってきては文字通り「風の便り」を運んでくる。
「まぁ、ありがとうございます」
ふわりと降り立つジンに駆け寄り、彼に預けられていた手紙を受け取ろうとする。
「ウンディーネからダス」
「ウンディーネさんから?」
彼女なら水を伝って遊びに来るという特技がある、その特技で彼女本人がくればいい話なのだから手紙を書く必要などないはずなのだ。
不思議に思って水色の彼女らしい封筒を開くと中には短い文が2行ほど。

『ルナちゃんとシェイドが喧嘩した、知恵求む  ウンディーネ』

「なんか、変なことでも書いてあったダスか?」
眉をしかめ、悩んだ表情のドリアードを不思議に思ったのか、ジンが心配そうに話しかける。
そんなジンに心配をかけてはいけないと慌てて首を横に振っていつもの表情に戻した。
「いいえ、ルナちゃんとシェイドさんの喧嘩の和議案を求める手紙です」
「…やっぱりそうだったダスかー」
という事はジンにも同様のウンディーネの助けがきたのだろう。
あの二人が喧嘩とは珍しいが、まぁ、そろそろしてもよかった頃合なのだろう。
ウンディーネには悪いが、ドリアードの中ではとっくに結論ははじき出されていた。
「大丈夫です…きっともう仲直りしてる頃合ですよ…仲良しさんですからね」
自信なさそうな今にも消え入りそうな声だったが、核心を得ているのは確かだ。
ドリアードがそういうのならきっとそうなるのだろうとジンはほっと一安心して息をつく。
仲間同士での喧嘩に耐えられなかったのだ。


「もし、お時間がありましたらお茶でもどうぞ…」
そしてドリアードは自分の住処へと招く。
白いランプの花や木々に囲まれた静かな庵が彼女の住まいだった、外には蔦や木を絡ませて出来たテーブルと椅子のセットが置いてある。
彼女の手作りで一見脆そうではあるが、実は物凄く頑丈なのだという。
よく見れば庵もそれらと同様の作りだ。彼女の器用な腕前にジンはほうと見ほれる。
「いつ見ても凄いダスーオイラなんてずっと洞窟住まいダス」
「成長速度を速めて作っただけですから…」
照れながら彼女は自分の力で作ったのだと誇らしげに話す、それに対してジンはといえば、風の回廊の奥の洞窟にローラントから譲ってもらった家具類を置いているだけでなにも手を加えていない。そんな彼から見ればやはり器用な仕事なのだろう。


ジンが椅子に座って待っていると庵からティーセットを運んでドリアードがやってきた。
「おまたせして…すみません」
「待ってないダスー」
朗らかに笑いながら彼女の不安を打ち消す、ドリアードはやや微笑んでお茶を注いだ。
「森で取れる花を加工して作りました」
茶色い塊を一つ、カップの中に入れると数秒も経たずに塊が花咲く、どうやら蕾だったようだ。
乾燥した花はカップの上でふわふわと漂っている。
「面白いダス!」
感動してジンはカップの中を見る。
「ドリアードは本当、こういうの作るの好きダスね〜」
「……」
褒めちぎった言葉にドリアードは赤面して無言のまま首を横に振る、褒められる事に慣れていないのだ。
「本当の事ダスよ?!自信持つダス!」
「はぁ……」
まだ顔を赤くさせたままのドリアードもジンの隣に座り紅茶を飲む。


「そういえば、他の皆さんはどうしてますか?」
話題となればこんなことしか思いつかない、それ以外にあるわけがないのだ。
ジンは何から話そうかと少しだけ悩んで頬を緩めた。
「…面白いのがあったダス」
思い出し笑いなのだろう、笑いを堪える独特の不思議な表情のままジンは話し始めた。
「ノームが子供の姿のままぎっくり腰になったダス」
「え?!それは大変じゃないですか、薬草を用意しますから、届けてください」
流石は木の精霊ドリアード、草木に詳しいので自然と薬草や毒草にも詳しいのだ。
「どうせなら一緒に行こうダスー」
ジンの提案にドリアードは一瞬だけきょとんとしてから思い切り首を横に振って否定する。
「ダダダ…!ダメです!フォルセナまで遠いじゃありませんか!私、重いですし…」
「大丈夫ダスーノームも女の子が来てくれた方がきっと嬉しがるダスー」
のんきなジンの説得にのせられ、ドリアードはそれじゃあと小さく頷いた。それを見たジンは嬉しそうに立ち上がる。
「よし、じゃ早速向かうダスー」
「…ジンさんっ!」


立ち上がって意気込む彼はふらりとよろける、自分の身体を支えようととっさにテーブルに手を着くが、その振動でカップがガチャンと地に落ちて割れた。
「あっ!ごめんダス!」
「いえ、そんな事より大丈夫ですか?!」
カップの始末もせず、ドリアードはジンを支える、ジンは情けなさそうに少しだけ笑ってこたえた。
「そういえばココ最近、眠ってなかったダスー」
それはよろめきもするだろう、ドリアードは非力な力で彼を支えようとするが、ジンはすぐに一人で立ち上がった。
「もう、大丈夫ダスー心配かけたダス」
「あ…」
にこりと笑う彼を見て、ドリアードは手を伸ばしたが、すぐに引き戻した。


「?なんダス?」
「あ…いえ…」
彼女は躊躇っている、いつものクセが出たようだ、こういうときはこちらが押さない限り考えを述べてくれることは無い。
「大丈夫ダス、教えて欲しいダスー」
やんわりと問いかけると、目線を泳がせながら彼女は自信なさげにか細く呟く。
「あっ…あの、よろしければこちらで休みませんか?」
「え…」
「あっ!出すぎた事だとは思います!でも薬草の準備でどの道時間もかかりますし、その間…」
彼女らしい気の回し方ではある、それが嬉しい。


「すっ…すみません!」
ジンが無言でいる事に気まずく思ったのか突如、彼女は謝り始めた。謝られるいわれは無いので彼は彼女と同じ位戸惑って視線を漂わせる。
「いや、そんなことないダス、ありがたいダスよ?」
「ほっ…本当ですか?」
まだ混乱しかけている彼女が大人しくなるように両肩を抑えて頷く。すると彼女はほっと一息ついて呼吸を整えた、恐らくこれで一安心だろうと彼も彼女の方から手を離す。
「本当ダスー」
「じゃ、こちらへ」
そう言って彼女は庵へ導く、入口から一歩入るとふわりと良い香りがした、おそらく彼女が作った香か何かなのだろう。


「さ、どうぞ」
畳の上に立つジンにドリアードは手際よく奥から毛布を一枚取り出す。それを受け取り、横になると藺草の匂いが心地良く、すぐに睡魔に襲われた彼はうとうとしながら彼女を見る。彼女はほっと安心したように彼を見ていた。
「好きなだけ、眠っていてください、私は準備をして表にいますので」
そう言って、去ろうとする彼女の服のすそをつかむ。引き止められた彼女はやや驚いた風に彼を見た。

「…どうか、しましたか…?」

「ん…眠るまで…」
最後まで言い切らないうちに睡魔に負けた彼は深い眠りへと誘われる、本当は眠るまでいて欲しかったのだろうが、裾を掴んだまま彼が眠ってしまったので、起きるまでその場に待機する事になった。

「よく、眠っているという事はやっぱり疲れていたんですね」

あとで疲れを和らげるお茶を淹れてあげようと彼女はジンのそばに座りなおし、まるで母親のように優しく彼の頭を撫でた。


きっと、仲間思いの彼の事だから寝る間も惜しんで世界を風に乗って回っていたのだろう。
思い返せば毎日決まった時間にここを訪れる事だって容易い事ではないはずだ。


「いつも…わざわざありがとうございます」







この気持ちをなんと呼べばいいのかわからないけれど。















きっと。もうすぐ。

























+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+

カップリングとしては薄いですが風→←木みたいな届いてないかんじ。
某新撰組少女漫画のサンナンさんが主人公達を草と風に例えているあの話が大好きで、そこから風木のカップリングを思いついたんですよ。
なので、そんな二人が目標です。
…道のりは遠いですが。






SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送