風木土



『なにも変わらない』





「これで大丈夫です…」
うつぶせの少年に上掛けをかけて優しく看病するのはドリアード。その少年は少年らしくないにやりとした笑みを浮かべる。
「ありがと〜やっぱり可愛い女の子の看病はいいのぅ〜」
「子供の姿で言う台詞じゃないダス」
ジンは呆れながらも少年、ノームの言い草を注意する。


ノームは精霊の中で一番年長でまとめ役である、それゆえ外見も老人そのものだ、だが、どうしてか外見年齢を変化できる能力があるらしく、あるときは青年だったりあるときは少年だったりと忙しい。
本来の姿である老人の姿に中々ならないのは本人曰く「若い方が可愛い子に近づけるじゃろう?」だからだそうだ。もしかしたら年齢操作の能力もその煩悩ゆえに生まれたのかもしれない。


「本当、まいったわぃ、この姿でぎっくり腰だなんてのぅ」
うつぶせのまま溜息をつくが、それが響いたのか痛そうに眉をしかめる。
「あ、安静になさってください…」
懸命に看病するのはジンからノームのぎっくり腰の話を聞いて見舞い兼看病にやって来たドリアード、彼女の横には籠いっぱいの薬草が積まれている。
「あの…これ全部が腰に効く薬草です、すり潰して腰に当てるとよく効きます」
「ありがとうのぅ」


へらへらとドリアードへノームは感謝の気持ちを伝える、褒められなれていない彼女は早速顔を赤くして「お茶を入れてきますね」といってそそくさと退出してしまった。
残されたのはジンとノーム。
「…男に看病されてものぅ」
「なに言ってるダス!無茶しちゃだめダスよ?!」
ノームがのんびりと構えている所為か、普段はゆったりとマイペースのジンが意外にもしっかりした一面を見せる。
「今度はルナちゃんにでも…」
治る前から次の看病にルナを指名している。ジンは呆れて溜息をしてから切り替えした。本当は呆れるあまりなにも言いたくなかったのだが、これは言っておかなければならないのだろう。
「シェイドが黙っちゃいないダス」
「おお、そじゃったな」
からからと陽気に笑う少年の姿をした老人に振り回されているジンは深く溜息をつく、まぁいつもの事なのだから慣れた事ではあるが。


「…前から聞きたかったダス、ノームはとシェイドはなんであんな仲が悪いダス?」
属性の相性は関係がないはずだ、だがなぜか二人の仲は決して良いものとはいえない。
ノームはああ、その事かと溜息混じりに話し始める。
「まー単純にウマが合わないんじゃよ」
「それだけ…?」
「世の中の人間関係と大差ないじゃろう」
確かに、その通りである、伊達にまとめ役を通して言うわけではない、ふざけているが彼なりにもちゃんとした意思がある。
「わしら個々に意思があって、性格がある、精霊の姿のときからの…」
精霊、と言っても決して高尚な存在ではなく、身近な妖精にも似た立場でもあった。


「人間と同じじゃないか」
「ノーム…」
人と変わらない意思を持ち、そして今はその姿も人間のそれとほとんど同じだ。
「だから街中に住んでるダスね?」
ジンの言葉にノームは笑って頷く、ノームは賑やかなフォルセナの城下町に住まいを持ち、もちろんドワーフの住む洞窟の中にも住処を持っているが、基本的には城下町の家で暮らしていた。そこで占いをして生計を立て、それはまるで人間のようだった。
「賑やかで楽しいからのぅ」
まとめ役でありムードメィカーの彼は飄々としているがやはり年長者なだけあって考えている事を隠すのが上手い、ジンがその思惑を謀りかねているとお茶をもってきたドリアードが戻ってきた。


「あの…お茶を持ってきました、あとお茶菓子も」
フォルセナの名物、大砲クッキーである。食べれば煙が出るという。
「ひょーありがとう…っ!!」
「あっ、ノームさん!」
喜んだのも束の間、無駄な動きをしたためか痛みが体全身に走り、ノームは布団の上に力なく突っ伏す。
「これじゃお茶もお茶菓子も無理ダスー」
「いっ…いやそんな事は…!」
「おいら達二人で向こうでゆっくりお茶してるダスから、ノームはゆっくり休んでるダスー」
思い切り否定しているノームの言葉を遮って、ジンはまだトレイを持ったままのドリアードの肩を抱いてノームの寝室を後にする、いきなり密度の減った静かな部屋に取り残されたノームは地団駄を踏みたい気持ちを痛みが走るからと諦め、力なくうつぶせになったまま残念そうに大きく息を吐く。











「なぁーにが『シェイドが黙っちゃいない』んじゃ…」
















お前も黙ってなかったじゃろうが














あとで何か仕返しをしてやろうと今はまだ痛む腰を治す為、眠りについた。














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コメント
ぎっくり腰、って体験談を聞くだけなのですが…こんな感じ、なのかな??

前回の風木からかるーく続き、なので短い…
お分かりの通り、風木、闇月3、そしてこの風木土は全部繋がってます。







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