ホワイトリリー

「ゆり知りまちぇんか?」

デュランはその意味を取りかねて数秒ぼーっとしていた。

「何でちかそのマヌケ面は。知ってるかって聞いてるでち」

「え…いや、知らない。てーか、何をだって?」

「もう!」

くるくる巻いた金髪を揺らして、シャルロットはいら立ったように腰に手を当てた。「ゆ、り! ゆりのお花でち」

「ああ…百合、ね。誰かの名前かと思った…しかし、何でまたいきなりそんなこと言うんだ?百合が必要なことがあるのか」

するとシャルロットは急にしょんぼりと肩を落とした。

「シャルロットのママの…シェーラの死んだ日なんでち、今日は。

だからママのために何かしてあげたくて…ママ、白いゆりのお花が好きだったって、前におじいちゃんから聞いたでち」

あ、とデュランは納得する。シャルロットの父母は彼女が幼い頃他界したとディオールの妖精王から聞いたことは記憶に新しい。

おれも母さんの命日に何かすれば良かったなと思いながら、デュランはシャルロットの頭をポンポンと叩いた。

「偉いじゃねぇかシャルロット。協力するぜ…って言いたいけど、ここはエルランドだしなぁ。百合は夏に咲く花だ。多分どこにもないと思うぜ。

おれの国に行ってもいいが、今はマナが不安定で季節もぐちゃぐちゃだから…咲いてるかどうかは分かんねぇ」

「え…じゃあ、ゆり、ないんでちか…?」

シャルロットはそれを聞いて気の毒なくらい肩を落としてうつむいた。

何とかしてやりたかったが、こればかりはデュランにもどうにもならない。困っていると、

「ハァーイおふたりさん、どうかした?」

アンジェラが手をひらひら振りながらやって来た。お気楽でいいよな…とデュランは思う。

「あら、シャルロット…どうしたの?デュランがいじめたの?

最低ね、あたしが仕返ししてやるからもう大丈夫よ」

「おれは何もしてねえってば!!頼むからサンダーストームだけは…」

デュランは慌てて事の成り行きをアンジェラに説明する。ふぅん…としばらく考えてから、アンジェラはポンと手を打った。

「何とかなるわ! 精霊に頼めばいいのよ」

「あ、なるほどね…でもいいのかな、ああいう力を私用に使って」

「構やしないわよ。さあ、奴らを呼びなさい」

こいつには敵わない…とがっくりするデュランであった。



というわけで、呼び集められた8人の精霊達である。

皆 退屈していたらしく、喜んでこの頼みを引き受けてくれた。

「雪が厚いけど…大丈夫?」

「なるべく薄くて、土に栄養の多いところを選ぶでな。…むっ、ここがいいんでないか?」

ノームが雪面のひとところをたしたしと踏んだ。

デュランが雪をざっと払うと、ノームの言うとおりすぐに地面が現れた。

「でも、地面も凍っちゃってカチカチよ」

「オレがやる!!オレが溶かす!!」

「あーかーん。あんさんがやったらやりすぎて土が灰になってまうわ。ウィスプはんに任せたらええねん、あっち行っとき」

ウンディーネが意気込むサラマンダーをにべもなく切り捨てる。

「何でだよー!!畜生、見ていやがれってんだぁー!!」

よほどショックだったのかそれとも何か策があるのか、サラマンダーは何故かジンとノームを引きずってどこかへ走っていってしまった。

「あれ…どこ行ったんだろ?」

「ほっといたらええ。さあ、続けようや」

「あはは〜、サラマンダー君には申し訳ないっスけどね…やっぱ、ガーデニングに欠かせないのはボクでしょう!」

ウィスプがにこにこと、露出した地面の周りを円を描くように手を掲げて動かす。辺りにふんわりと暖かさが満ち、地面も程よく柔らかくなったようだ。

「では、種を植えますね…あの、私のできることってこのくらいですけど、お役に立てて嬉しいです!

私にも生きる価値が見出せました」

「大げさでちね、あんたしゃん…」

ドリアードが地面を抱くように優しく包んだ形の手を当て…その手が放されると、そこには若緑の小さな芽が現れ出ていた。

「すごい…素敵だわ。あたし、雪の中から芽が出るところなんか見たことなかった…」

アンジェラがうっとりと呟いた。

「さあ、こっから一気にいくで。ルナちゃん、準備はええ?」

「もちろんですとも!」

ウンディーネとルナは顔を見合わせて頷きあうと、同時に百合の芽に向けて手を掲げた。

その手からそれぞれ水色と月色の光の帯が伸び、百合を包んでいく。

しばらくしてその二つの帯が消えると、そこには見事に成長してつぼみをつけた百合の花があった。

「すごーい!!手品みたい」三人は思わず拍手を送る。

照れたように頭を掻きながら、「ルナちゃんの月の力で花を一気に肥大成長させたんや。

養分はうちの水と、土の中の酸素と栄養分。丈夫やし、すぐ枯れたりもせえへんよって」とウンディーネは説明した。

ルナもうれしそうに頬を紅潮させて、うんうんと頷く。

「…でも、つぼみのままですわねえ…おかしいわ」

ルナの言葉に、一同は百合を見つめる。確かに、大きなつぼみはついているものの、それは固く閉じられたままだ。

「なんでやろな?何か足らんもんあったかいな」

「ボクがもう一回光を当てましょうか」

「…違う」

突然ウィスプの脇から黒い手袋をはめた手がぬっと突き出た。

「だぁ!!…もう、シェイドさん、驚かさないでくださいよ〜」

そう言うウィスプを無視して、シェイドは皆の輪の中へ入ってきた。

「シェイド、分かるのか?」

デュランの問いに、シェイドはかすかに頷く。

「この花に足らぬのは、休息。眠ること…つまり夜だ。

生きとし生けるもの全てに必要なもの。…そんなことも分からんとはな」

次の瞬間、シェイドは百合のつぼみをぐしゃりとわしづかみにした。

「あっ!!何てこと―――」

アンジェラの叫びはしかし、途中で途絶えてしまった。シェイドが握った手を放した瞬間、

太陽の出づるように純白の花びらが溢れんばかりに咲き零れたからだ。

白い雪の中でなお白く、気高い一本の白百合だった。

「わあー!!すげえっスー!!さっすがシェイドさんっスー!!尊敬するっスー!!」

「そっ、そうなんです、植物に夜は必須なんです、シェイドさんありがとうございます、

私 知ってたけどどうしようもなかったから、あぁほんとにありがとうございます」

「なんかおいしいとこ取りされた気分やな」

「ほんと…ちょっと悔しいですわ」

当のシェイドは周りの騒ぎもどこ吹く風といった顔で、すぐに立ち去ってしまった。

念願の白百合を前にして、シャルロットは顔を輝かせる。

「うわぁ…すごいでち…ほんとにすごいでち…」

「よかったわね、シャルロット」

アンジェラが言ったその時、

「喜ぶのはまだ早いぜチビ助!!」

どこからか声がしたと思うと、サラマンダーが向こうから風のように走ってきた。

その後ろから幾分のんびりと、ノームを肩に乗せたジンがついてくる。

「チビ助じゃないでち! …サラマンダーしゃん、どこに行ってたでちか?」

サラマンダーはニヤリと悪戯な笑みを浮かべる。

「へっへ。サラマンダー様をなめんなよ。 チビ助へ、プレゼントだぜ」

そう言って彼が見せたのは、ほどよい大きさの可愛らしい素焼きの鉢だった。

「これにあの花入れて飾っとけよ。お前好みに作ってやったぜ」

「粘土探したのはノーム殿、デザイン考えたのは自分!もう…全部あんたの手柄みたいに言わんでほしいだす。

焼く時の火加減の調節だって、自分がしたんだすからね」

ジンが呆れたようにサラマンダーを見やった。

「まあ、コイツはこういう奴じゃからな」

ノームは悟ったようにキセルをぷかぷかくゆらせている。

「何だよー。いいじゃねーかよ、チビ助を思う気持ちは皆同じだぜ。

ほれ、オレ達渾身の作だ、壊したらただじゃおかねえぞ」

まだ温かいその植木鉢をぽんと渡されて、シャルロットはしばらくぽーっとしていた。

しかし、愛しげに鉢を撫でると、全員の顔を見上げて溢れんばかりの笑顔で言った、

「みなしゃん、ありがとう! ほんとに、ほんとにありがとう、ね!!」



デュランが窓辺に白百合の鉢を置くと、ちょうど部屋の掃除に来ていた宿屋の主人がそれを見つけていった。

「おっ、百合ですか?綺麗ですねぇ、見るのは久しぶりです」

「ええ、まあ…そうだ、おれ達が留守の間コイツの世話をお願いできませんか。水の神獣…

いや、えーっと、雪原の探索に行くので2,3日いないんですけど」

「はあ、構いませんよ。しかし珍しいですね、百合なんて…どこで手に入れたんですか?」

「あー…まあ、その辺で」

「その辺で?」

明らかに不審がる主人から慌てて目を反らし、デュランはシャルロットに声をかけた。

「そ、そろそろいくか、シャルロット?アンジェラも外で待ってる。長いこと待たせたらひどいぜ」

シャルロットは頷いて、

「行って来ますでち」

窓辺の百合に手を振った。

〜おしまい〜


「十字月光」を経営されている朔神栞様から相互リンク記念のリクエスト、「精霊関係のショートストーリー」をいただいて書いたものです。
こうしてみると、ショートといえど随分長いですね。それとも今までの私の話が短すぎたのか…きっと後者だ。
だって、気合入れて書いたもんこれ。何せ初めてのお話のリクエストですからね。ファイトが違うさ。しっかり擬人化もしてしまいました。
一回やってみたかったネタなんです、「精霊の力で花を育てる」!!何とかと精霊は使いようってことで。(エ)
ガーデニングとはおよそ関係ない火、月、闇、風もなんとなく混ぜ込むことに成功したし、いやぁよかった。
擬人化で何がいいって、やっぱり手と足が使えること!便利だもんな〜そうなると。精霊の使い道もぐんと広がる!(のか?)
通常穴場のシェイドとサラマンダーが知らないうちにおいしい役柄に。でも、作者のお薦めはジンだよv(何故)
自分としては良い出来に仕上がったなぁと思いますが…栞さん、気に入っていただければ幸いです。
リクエストありがとうございました!これからもどうぞよろしくお願いします!


相互リンクで頂きました♪ありがとうございます!!
精霊が全員出てきてウハウハなのですよぅvvジンも中々だとは思うのですが、闇のあのイイトコ取りなところがまたツボです(苦笑)シャルロット、皆に愛されててよかったねvv
のろこさまの精霊さんたちはみんな役割や性格がはっきりしていてその個性の強さがまた素敵なのですvvおかげでいろいろ影響を受けまくっています。

あ、十字月光と言うのは移転前の名前です;引越しの際にリニューアルと称してサイト名を変えました;

相互リンクありがとうございますvv





                                        

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