上った太陽に照らされきらめく水面、今日も海は碧く穏やかであった。

一方、その水面よりはるか深海の人魚の住まう海神の世界。
一人の人魚は共を連れ、禁忌とされる海面へ泳ぎ出ようとしていた、その人魚のウロコは深海からは決して見えぬ鮮やかな空の色を宿し、肩先までの短いながらもヒラヒラ舞わせている髪は陽光のような色をしていた。

「姫様、危険です、せっかく輿入れも決まったと言うのに何かあったら…」
供についてくるのは一匹の海蛇、特殊な生まれなのか他の仲間とは違い暗い赤の体を持っている。そんな供の忠告を聞かず人魚はどんどんと光へ向かった、その光の先に見た事のない、別世界がある。
「大丈夫、僕は隣にある別の世界が見たいだけなんだ」
自分たちの存在する世界のすぐ隣にある「ニンゲン」の存在する世界へ――





【泡沫恋心:1】





光に手の届くと思った瞬間、黒い影が行く手を阻んだ。大きな影に驚いて思わず手を引っ込めるがそれはどうやら動かない、恐る恐る近づくと上半身だけ自分と同じ形をしていた。
「これは人間ですね」
「これが?」
初めて目にする自分よりも大きなそれに孫兵は驚く、人間はみな巨人なのかもしれないと思いじぃとその顔を見てみる、短く切った黒い髪はゆらゆらと海中に漂い、顔は整っているのだが気を失いぐったりとしているためか孫兵には人相がよくわからない。

「とにかく助けてあげよう」
「ええ!?」
孫兵の言葉にジュンコは一瞬信じられずに驚くが、そんな彼女を置いて孫兵はさっさと男の腕を引っ張りながら岸へと運ぶ。岩場に囲まれた小さな砂浜までたどり着くとその砂浜に重たい男を寝かせた。
「この人、気がつくかな?」
孫兵は、陸を見たいと言う目的で海底の人魚の国から遠出をしたと言うのに助けた男に夢中になって今初めて上陸した事に気づいていない、青々と生い茂った緑も、自分の尾ひれと同じ色が空一面にかかっている事も、なにも気づかないまま男の頬を軽く叩いた。

男はすぐに飲み込んでいた水を吐きだし、むせってゴホゴホと咳き込んだ。やがて彼は瞼をゆっくりと開いていく、しかし焦点が合っておらず今、自分がどうなっているのか理解出来ていないようだった。
ようやく辺りを見回す気になったのか寝転がったまま頭を上げて首を回す、そしてそんな彼を見下ろしている孫兵と目線を合わせた。そこでようやく孫兵は、この男の顔が整っている事に気づく、若干釣りあがった目だがきつい雰囲気はなくむしろ優しげな印象だ、思わず引きこまれそうになる。
「……」
「…大丈夫、ですか…?」

驚いているのか声を発しない男に孫兵は恐る恐る声をかける、そう言ってる自分さえも戸惑っている様子が男の黒い目に映って見えた。
「あ、ああ…」
男は手を伸ばし、指先が、孫兵の頬に触れる。孫兵は温かいと感じたのだから向こうは冷たいと感じただろう。その瞬間、なぜかわからないが胸が苦しくなりその場から逃げ出したくなる。
「助けてくれたのか…?」
「…っ!」
男の問いに言葉にならず孫兵は首を縦に振って伝える。

「そうか、ありが――」
「無事ならいいんです!さよなら!」
胸の苦しさに戸惑いながら、孫兵は慌てて海へと戻る。冷たい海水が火照った頬を冷やし、触れられた一瞬で赤面したのだと知らせた。
「――人魚…?」
頭だけをなんとか起こした男は去っていく孫兵の、空色の尾ひれを確かにその目で見た。

◇◆◇

何度目のため息かわからない、ジュンコは自分も気落ちした気分で隣の孫兵をちらりと盗み見る。

――また、ため息。

半分伏せた目の、長いまつげが瞬きの度にゆらゆらと揺れる。
「あの男が気になりますか?」
海の底の、孫兵がいつも陣取っているその岩場は集落から少し離れたさびしい雰囲気の場所だ、華やかな場所を好む人魚は滅多にこの場所にやってこない、つまり一人きりになるには都合の良い場所だ。仲間とあまり馴染めない孫兵にはうってつけの秘密基地である。
そんな孫兵の唯一の例外として傍にいるジュンコの質問に孫兵は素直にうなづく、元々ごまかすと言う事を知らないまっすぐな子だ、だがここまであからさまだとジュンコもどう対処して良いのかわからない、今日で何日目だろうか、同じくため息が出そうになる。

「――陸ってさ」
久しぶりにため息以外のものが孫兵の口から洩れる。
「温かいね、こんな海の底とは大違いだ」
確かに、あの太陽と言うものが地上を照らして暖めているのだ、その光の届かぬ海底が温かい訳がない。
「行って見たいなぁ」
――それは陸にか、それともあの男の所か
出てきそうになる言葉をジュンコは必死に飲み込んで別の言葉を選ぶ。

「…その姿じゃ陸に上がっても移動ができませんよ」
「なんで?」
「あの人間と同じ”足”が無ければ陸を移動する事は出来ません」
きっぱりと言い切る、これで孫兵が陸への思いを断ち切ってくれるだろうと思った。しかし意に反して孫兵はいつもより積極的に突っかかってきた。
「なにか方法はないかな?」
それまで見たことないほど真剣なまなざしでジュンコに視線を合わせてきたので思わずジュンコはどきりと目をそらしてしまう。

昔から、孫兵の頼みはたとえ本人にとって悪影響であっても断る事は出来なかった、今回こそは悪影響どころか下手をすれば孫兵の命すら危ういかもしれない、だから頼みを聞き入れまいとしていたが、これを「知らない」と言い切ればその真摯な表情は一瞬にして沈んでしまうのだろう。
孫兵はジュンコが珍しく目をそらした事にショックを受け――彼女の答えを「NO」と受け取ったのだろう――姿勢を直して黙り込んでしまう。

ざわざわと海がうなる音が辺りに響き、静まり返ってしまう。ここは誰の声も届かないほど仲間からはぐれた場所なのだ。
「…一つ、ウチに伝わる薬があります」
搾り出すような震える彼女の声に孫兵は思わず息を呑む。そして次第に鼓動が早くなっていくのを自覚した。
「それを使えば尾ひれが脚になります、ただその脚が生えている時間は一週間です」
「一週間…」
「昔はそのまま海の泡になってしまう劇薬でしたが代々改良を加えて、一週間経てば人魚の姿に戻るだけに踏みとどまりました…」

次第にフェードアウトして行くジュンコの声が孫兵にはどこか遠くから聞こえてくるようだった。
孫兵はうつむいたままのジュンコの前へ泳ぎ出てまたまっすぐ彼女の黒い瞳を見つめる。
「ジュンコ、お願い」
彼女の黒い瞳とは対照的な光のような明るい瞳、彼女はそれに逆らうことは出来ない。
「…解りました、こちらへ」
ジュンコは体をうねらせて岩場からそのままより深い海溝へ沈んで行く、孫兵も黙ってそれに習った。

海溝はさらに暗く、ジュンコはどうして見えているのだろうと言うほど曲がりくねった道をすいすいと進んで行った、孫兵は岩にぶつかりそうになりながらジュンコの少し後を追うので精一杯だ。
ジュンコは時折振り返っては孫兵がきちんと後をついてきているか、少し遅れているならば孫兵の傍まで戻りながら岩の間を進んでいく、方角もわからなくなって大分経つ頃、ジュンコはようやくたどり着いたらしく立ち止まる。

「ここ?」
「……」
孫兵も遅れてたどり着き辺りを見回すと全てが岩場になっていた、どうやら洞窟らしい。でこぼこした側面の岩は棚にもなっており、その棚からジュンコは器用に一つの貝を取り出す、ふたを開ければ海草とは違った不思議な緑色の軟膏が姿を見せた。
「…これを尾ひれの付け根に塗りこんでください、あとはそこから徐々に二本のアシが生えてくるはずです」
「うん、わかった」

なんの疑いもなく孫兵はそれを白い貝殻の器から掬い取って自分の腰の辺り、色が肌色から空色へ変色しているところへ塗りこんだ、緑色の軟膏は光を増し、尾ひれを侵食するかのようにじわじわと下へ光の面積を増やして行く。
孫兵はその様子をじいと見ていた。
「姫様?!それは人間になる薬です、人間は水中では呼吸出来ません!」
僅かに目を離していたジュンコの叫びはすでに遅く、孫兵は徐々に息苦しくなっていくのを感じていた、その苦しそうな表情を見たジュンコはすばやく自らの体を孫兵の腕に絡ませ猛スピードで孫兵を引っ張りながら岩場を潜り抜ける。
「ああ、申し訳ございません!浅瀬へ移動してからこの薬を姫様に見せるべきでした!今すぐ陸へご案内いたします、それまでの辛抱です」

先ほどとは別にある最短ルートを辿り岩場を抜けて海面へ海面へと懸命に孫兵を引っ張る。ジュンコの後方からゴボリ、という音と彼女よりも速いスピードで海面へ上っていく泡が見えた、スピードを落とすことなくちらりと振り返れば孫兵はぐったりとしている、どうやら呼吸が出来ず気を失ってしまったようだ。
一足遅れてようやく海面に出る事が出来たが、蛇の姿のジュンコでは孫兵を持ち上げる事が出来ず、気道の確保が不可能だ、早く岸まで運ばなければならないと焦れば焦るほど揺れる波が行く手を阻む。
「姫様…!頑張ってください、もうすぐ岸です…!」
波の音にかき消されながらも気を失っている孫兵に必死で呼びかける。孫兵からの返事はないままジュンコは波の勢いに乗ってようやく陸へと這い上がった、数日前にもやってきたあの岩場に囲まれた小さなやわらかい砂浜に孫兵を横たえる、薬は見事に効いたらしく海で唯一だった空色の尾ひれはどこにもなく、人間の脚が二本、孫兵から生えていた。

「姫様!姫様…っ!」
気を失っている孫兵へ必死に呼びかけるが応答がない、水はそんなに飲み込んでいないはずだが、もしかしたら薬の副作用かもしれない、心細く孫兵の傍を離れられずにいると背後からじゃりっと岩と砂の摩擦音が聞こえた、何者かが岩場を乗り越えて近づいてきたらしい。
「…!」
ジュンコが振り返った先にいたのは見た事のある人間だった、腰に魚篭を下げて手には釣竿を持っている。
「どうかしたのか?」
ぐったりと砂浜に横たわっている孫兵をみて深刻な状況だと悟ったらしい、手にしていた釣竿をその場に捨て置くと駆け寄り孫兵の体を横にすると背をドンドンと強く叩く。

「ちょ!姫様に何すンの!!」
そのあまりの強さにジュンコは舌をチロチロとさせながら抗議するが男は耳を傾けない。
やがて孫兵はむせった咳をし、同時に飲み込んでいた海水を吐き出した。水を吐き出すため強く叩いていたのだとジュンコは気づくがそれにしても強く叩きすぎだろうと内心怒りが収まらない。
しばらく咳き込んでいる孫兵を見た男はようやくほっと肩の力を抜き、孫兵の顔をじっと見つめる。

「やっぱり、お前はあの時助けてくれた人魚か?」
孫兵の顔を判断するや嬉しそうに男は問いかける。孫兵は意識を取り戻した直後でまだ混乱しているので訳が解らない様子で男を困ったように見上げた。しかし徐々に意識がはっきりしてきたのだろう、男を認識したのか戸惑いながらゆっくりとうなづいた。
「ああ、あの時は本当に助かった、ありがとう」
「どっ…どういたしまして」
明らかに覚醒前とは困惑の意図が変わっている。男はそれに気づかない様子でおや、と続けた。
「君は人魚だったろう?なぜ人の姿になっているんだ?」

当然の男の疑問に孫兵は目をそらしながら答える。
「…陸に上がってみたくて、ジュンコから尾ひれが足になる薬を貰いました」
ジュンコが横にいる赤い蛇だと説明を付け加えると男は一瞬だけそちらを見てこの蛇が?と驚いた様子を見せ、そして孫兵へ向き直った。
「そうか…もしこちらに頼る者がいないならウチに来るといい、あのときの恩返しだ」
元々義理堅い人間なのだろう、早速以前助けられたお礼にとばかりに提案を持ちかける。

これから一週間、どう陸で過ごすかを全く考えていなかった孫兵と、考えていたがどうしようかと悩んでいたジュンコにとってありがたい申し出だ。
「いっ…いいんですか?」
「ああ、もちろんだ」
しどろもどろしている孫兵の、少し離れた所でジュンコは何かを言いにくそうに身を捩じらせる、だが孫兵にも男にもそれは見えなかったようだ。
孫兵はこくりと首をうなだれ、小さくお世話になりますと呟いた、それをようやく聞き取った男は朗らかな表情をさらに嬉しそうに和らげた。

「そうと決まれば早く…!」
男は少々焦った様子で孫兵を立ち上がらせようとする、まだ二本の足で歩いた事のない孫兵は慣れずによろりと体勢を崩した。
「そうか、人間になったばかりで歩けないのか」
「すみません」
よろめいた孫兵の体を支えながら男は納得したように呟く、そして孫兵の言葉を聞くや否やひょいと孫兵を抱き上げた、突然の事に孫兵も、見ていたジュンコも目を丸くする。
「姫様っ?!」
「わっ!あの…?」

混乱する一人と一匹を他所に男はひょいひょいと岩場を乗り越えて海岸から殺風景な野原へ出る、その先に小さく見えるのは風化の激しい小屋のような建物、男の家だ。
「あのな、君達の世界じゃどうだか知らないが…とりあえずこっちの世界ではこう言う服と言うのを着るんだ…」
男は困惑顔で説明しながら自分の着ている着物を示す、孫兵は男の着ている服どころか何も身につけてはいなかったのだ。


村から少し離れた寂しい場所に位置する男の家の周囲は幸運にも誰もおらず、家へ駆け込むと埃の被った行李から一枚の古い着物を取り出した。
「兄のだ、とりあえずこれで凌いでくれ」
手慣れた様子で男に男の兄のものだと言う服を着付けられる、男の言うとおりそれは孫兵には大きかったらしく袖がだらりと垂れ下がった。

服を着たところで砂浜で男に置いてかれたジュンコがようやく追いついて戸口のスキマからするりと這って入り込む。どこか怒りを帯びているのは気のせいではない。
「ジュンコ!見て!」
ジュンコに真っ先に気づいた孫兵は男の着せてくれた服をジュンコの元に駆け寄って見せようとする、着付けられる時点で立ち上がる事はできるようになっていたが歩けるようになったのは今が初めてだ。初めて歩く先にはジュンコがいる。
「姫様…」

ジュンコはこれほどまで明るい笑顔の孫兵を久しく見ていなかった、海にいた孫兵は仲間と溶け込む事ができず、唯一信頼していた家族とももうじき引き離される、ここ最近はただでさえ少ない笑顔がさらに消えていたと言うのに陸に上がってからあっという間にその笑顔を今まで以上の明るさで見せるようになっていた。
その笑顔を出会って僅かな時間で引き出してしまった男にジュンコは嫉妬と警戒心を抱く。
「ありがとうございます…ええと…」
ジュンコを抱き上げ、彼女を首に巻きつけると孫兵は振り返って男へ礼を述べようとしてそこで詰まる。
いまさらであるが名前を聞きそびれていたのだ。
男もそれに気づき声を上げて笑う、孫兵もそれに釣られて肩を震わせた。
「そう言えば名乗ってなかったなぁ、俺は食満留三郎だ」

孫兵は初めて聞く男の名を口の中で反芻し、それから自分の名を名乗った。
「僕は孫兵といいます、この子はジュンコです」
「孫兵か!よろしくな、ジュンコも」
男、留三郎は笑いかけながら孫兵の頭をなで、複雑そうな表情のジュンコの、小さな頭も気にする事無く指で撫でた。
孫兵がこれほどまで笑えるようになったのはこの男の快活な笑みにつられているのだろうとジュンコは自分に言い聞かせる、それ以外の理由はあっても困るだけだ。
「よろしくおねがいします」
ただし、彼女は孫兵と留三郎の笑顔の質が全く異なる事までは気づかなかった。

◇◆◇

孫兵は疲れたのか、留三郎の用意した夕飯を食べるとすぐにうとうととし始めぐっすりと寝入ってしまった。
じぃと寝顔を見て孫兵に起きる気配がない事を確認すると、座っていると言うのにそれでもジュンコより目線の高い留三郎に向かって顔を上げて視線を合わせた、その視線に気づいたのだろう、留三郎もジュンコを見下ろす。
「少しいいかしら?」
「?なんだ?」
留三郎は蛇であるジュンコに対しても孫兵に対する態度と変わりない態度で接してくる、ジュンコは孫兵をちらりと盗み見、それから外へ体を這わせた、留三郎もジュンコの行動で孫兵には聞かれたくない話があるのだろうと予測して彼女に黙ってついて外へ出る。

外は月がまだ出ておらず、星灯りだけが頼りの暗い夜だった。
「一つ、言い忘れていた事がありまして」
ジュンコが話しはじめると留三郎は躊躇わず地面に座りこみ、ジュンコの視線に合わせ彼女の話を聞く体勢になる。
「なんだ?」
「姫様が使った妙薬はその昔、人魚が人間と結ばれるために発明されたもの、そのため人間と結ばれてしまえば姫様は永遠に人魚に戻る事はありません」
これは孫兵にどうしても伝えられなかった薬の副作用だ、長年この効果を消そうと先祖も自分も頑張っていたが元々この薬に絶対必要だった効果なのだ、消せば足が生える効力も同時に消えることがわかり副作用のまま効果を発揮し続ける事になった。
留三郎はなぜそんな話を、しかも孫兵にではなく自分だけに伝えるのだろうと疑問を抱く。

「姫様はもうじきここより少し離れた海域の主へ嫁ぐ身です」
自分よりも年若に見える孫兵が嫁ぐと言われてもぴんと来ない、困惑顔で留三郎はジュンコの話を黙って聞き続ける。
「その嫁ぎ先の主はとても横暴な人魚です、人魚に戻れなくなり嫁げなくなった姫様の事を知れば…あの主の事です、この辺りの海は荒れて生き物は死滅します、おそらく海の我々の故郷はおろかこの界隈の人間もここでは生きられなくなるでしょう」

ジュンコは孫兵の供として一度婚約相手の主に会った事がある、傲慢な性格でジュンコは孫兵が幸せになれるか疑ったが、幸いにも孫兵を大層気に入ったらしくとても満足していた、その孫兵を逃したとなればあの主は怒り狂うだろう。どう海が荒れるかまでも容易に想像できる。
「……」
海の傍で海の恩恵を受けながら暮らす留三郎だ、この辺りの海が彼の住む村や遠くの少し開けた町にとってどれほど重要であるか重々承知している。留三郎はジュンコの言葉で生命線を絶たれた村の末路を想像し背筋を凍らせた、そんな事になれば男もここで生きて行く事はできなくなる、ジュンコも同じ気持ちで忠告しているのだと思うと気が引き締まった。
そしてジュンコが孫兵にこれを伝えなかったのは孫兵が少しでも気持ちを自由に開放できるようにと気遣っての事なのだろうと納得する、何か制約があればそれだけで行動は縛られてしまうからだ。

「くれぐれも、姫様が人間に心惹かれぬよう、お願いします」
留三郎は、慎重にゆっくりとうなづいた。
「解った、気をつけよう」





   


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