闇月3−02
『君といつまでも』
「無理!無理ダスー」
「はぁ?使えへんなぁ」
地上、ミントスの町外れでジンはウンディーネと合流する、二人の喧嘩をウンディーネから聞き、仲裁に入ろうと駆けつけたジンだったが、協力も空しく玉砕してしまったのだ。
両手を合わせて「申し訳ないダス」と呟くジンに向かい、息巻いてウンディーネはうで組をする。
「じゃ、しゃーない、ルナちゃんがだめならシェイド焚きつけるかー」
「がんばるダス!オイラは他の仲間に知恵を借りてくるダス」
肩を回し、臨戦態勢をとるウンディーネに激を送り、ジンはふわりと飛び去った。
小さなつむじ風を見送って、ウンディーネはしばらく考え込む。
「逃げたな…」
恐らく、このウンディーネの呟きがジンの本音なのだろう。
月読みの塔の麓、門前で何をするでもなくただぼんやりと座っているシェイドにウンディーネが声をかける。
「ルナちゃんの様子は?」
「…まだ、出てこない」
不思議そうに高い塔の上を見上げる、月読の塔はこの森で唯一の建造物であり、彼女、ルナの拠点でもある。
迷いやすい内部ではあるが、慣れればただ行き止まりが多いだけの塔でルナは当然の事、シェイドも内部を完全に把握している。
その塔は今はルナによって硬く閉ざされ、まるで天岩戸の如く外の世界を拒んでいる。
彼もルナの拒絶した気まずい空気を読んだのか彼女が篭ってしまっている塔に入ろうと、近づこうとしないのだ。
「会いにいったげたら?」
「…いいのか?」
気まずい空気を理解した率直な疑問にウンディーネは口ごもる、最悪、喧嘩が悪化する可能性もあるのだ。
「そ…そやねー…ま、この状態がいやで少しでも改善する気があるんやったら、ええんちゃう?」
本当はすぐにでも最上階まで上って彼女に逢ってほしいところだが、その本音は隠す事にする。
自分が後押しするのではなく、あくまで彼が自発的に動かなければきっと解決しないのだ。
「ルナちゃんなぁ、じぶんに振り回されて迷惑なのかもしれんって思いつめてるんよ、そりゃ解るな?」
このくらいの示唆なら良いだろうというウンディーネの言葉にシェイドは頷く。
「ああ、向こうの言い分を全部聞いてから反論する気でいたら走って行ってしまった」
「…はぁ?」
シェイドの言葉を思わず聞き返す。呆けるウンディーネを他所にシェイドは淡々と腕を組みながら溜息混じりに話し始める。
「いつもそうなんだ、勢いがありすぎるというか…最後まで人の話を聞かないでそそっかしい事したり…」
「ちょお待ち!ッてことは…」
「もちろん、振り回されてるつもりはない、私も人と一緒にいるのは楽しいからな」
ということは完全にルナの先走りなのだ。そういえばルナにかまけてばかりでシェイドの言い分など今の今まで聞いていなかった気がする。
「っ…」
「どうした?」
そうだ、こいつはこういうやつだ。そんな呆れと怒りの混ざった感情をどうしていいかわからず、ウンディーネはキッとシェイドをにらみつける。
「早ようルナちゃんにそれ伝えてこんかい!こンの阿呆!!」
ウンディーネの怒声に背中を押されたかは知らないが、ウンディーネの言い分に納得したシェイドは月読の塔へ入っていった。
彼女のいる場所はわかっている、きっと自分の部屋でもなく、最上階のあの月光の差し込む場所なのだろう。11階の長い距離を彼は走り始めた。
「……」
何度目になるかわからないため息をついて、ルナは辺りを見回す、月は相変わらず自分を見下ろし、光を与える。
先ほど、ジンが去ったときから何も変わらない風景はいつも見る風景だった。そこに黒い影は無い。
第一、彼がこの屋上に来る事すら滅多にないのだ、光がより強い所為か余程のことでもない限り唯一つの入り口で立ちすくみ、月光浴が終わるのをただじっと待っていた。
何を思って、終わるのを待っていたのだろう?
ただ、わずらわしいとでも思っていたのだろうか?
一つ、不安な要素があれば、それだけで思考は負に支配される、ずっと悪い事ばかりを考えてしまう。
いつもなら絶対考えない、悪い事も思ってしまう。
そう、例えばもう、シェイドがこの森からいなくなっていたらどうしよう?とか。
きっとこんな閉じこもってる自分に呆れてしまったっておかしくは無い、どこか、別の場所に行っててもおかしくは無いのだ。
「や…っ!やだやだやだ!!」
また一人になる不安。
淋しい気持ち。
ない交ぜになって涙がこぼれる、もう何度こぼしたか解らない。
「もっと…楽しいこと考えよ、ねっ!」
自分に言い聞かせて無理矢理にでも考えようとする。
「……」
しかし、かけらも思いつくことなどない。
「…もぉ…やぁだぁ〜…」
再び顔を伏せ、こぼれた涙を湿った袖で拭う。さっきからあふれる涙の所為でもう袖口に乾いた箇所は無い。
「ルナ」
久しぶりの声に体が緊張するのがわかった。誰だかなんてすぐ解る。
「……」
シェイドだ。こっそり扉を開いたのだ。
カツ コツ カツ コツ…
嘘、近づいてる。光が強いからってあんなに屋上に入るの嫌がっていたのに。
ああ、きっとお別れを言いに来たんだ、これが最後だから屋上に来れたんだ、
お別れ言ったらきっとどっか行っちゃうんだ。
また、一人ぼっちだ…
「また、そうして早とちりをする」
「え?」
考えてる事…
「解る、ドツボにハマって私と顔を合わせづらいんだろう?」
…解ってるんだ…
気配が後ろから前に移動した、それにあわせて視線を上げると黒い黒い闇がすぐそこにいた。
月を、背に隠して、闇はわたしを見下ろす。
かと思えば彼は座って濡れタオルを取り出した。
「持ってきて正解だった」
そう言って片手でわたしの顎を掴み、固定するとぐしゃぐしゃでみっともない顔を拭き始める、濡れタオルはほわんとあったかい。
「さ、何ドツボにハマったか話せ」
向かい合う彼はいつもより積極的だな、と思いながら顔がさっぱりしたせいかすらすらとそれまで思いつめていた事を、きっかけでもある彼に話す。
なんで、聞いてくれているのかも解らずに。
でも彼は、わたしが話している間中、ずっと頷いて話を聞いてくれていた。
そういえば、あの時もただじっと聞いてくれていた。
――…そうか、同じだったんだ。あれはわたしの言い分を聞いてくれていたんだ。
「……ごめんなさい…」
最後に、一番言いたかった言葉で締めくくると、彼はまだ手にしていた濡れタオルを折りなおして、きれいな面でまたわたしの顔を拭く。
また、いつの間にか泣いてたみたい。今度はひんやりと冷たくなってて気持ちよかった。
「――1つ、」
「?」
「最初に言っただろう?闇の力が一番強いから、私はこの森から離れられないと」
そういえば、そうだった。
ドツボにハマるあまり基本的なことを忘れてしまっていたようだ。
「だからどこかに行けるわけがない」
ふわり、と視界は黒一色に染まる。耳にはトクントクンと言う心音。わたしのじゃない。
…シェイドのだ…
シェイドは私を抱きしめて、更に力を込める。でもなんでか苦しくは無い。
「迷惑でもないし、困ってもいない」
声が、震えてる。
「シェイド…」
泣いてない、けど、不安そう…
「…嬉しいんだ」
ああ、それを、わたしに…伝えたかったんだ…
あの時に。
「ごっ…ごめんね、ごめんね」
意地張ってたばっかりに、シェイドの言いたい事、聞こうだなんて全然考えてなかった。
本当はそれ、あの時に言いたかったんだよね?
気づけなくって、逃げ出して、ごめんね。
腕を回して、シェイドを抱きしめかえす、体格差故か腕どうしてもを背中に回しきれないけれど、それでも懸命に腕を伸ばして抱きしめた。
「私も一人はもう沢山だ」
抱きしめあう反対側の彼も同じだったことを知り、言葉は自然と溢れた。
「ねぇ、一緒にいようよ…このまま」
一人になるのがイヤだから、淋しいから、このまま一緒にいようよ。
もしかして、これが告白というヤツなのかもしれないとぼんやりと思いながら向こうの言葉を待つ、
もう不安に思うことなどない、向こうも同じなのだから。
思えば告白らしい言葉など何一つ無く、いままで過ごしていた。
不思議な事に親しみを持ってはいたが、その好意をそれらしい言葉で表現する事などなかったのだ。
きっと他の仲間が聞いたら驚くのだろう。
そんなルナの思考とは他所にシェイドはその言葉を聞き、覆い隠すかのように抱きしめてルナの耳元に呟く。
「離して…やらない」
うん、離さないで
そう、答えようとしたがその漆黒の目と合った時、自然と体が動いて唇を重ねていた。
それはほんの一瞬だったが、それでも十分だった。
ルナを混乱させるには。
顔を真っ赤にさせながら勢いよく塔を下りたルナがふもとで仲直りはまだかと待ち焦がれていたウンディーネにまた泣きついて、
彼女を思い切り困らせたのは言うまでもなく。
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コメント
ルナはお子様ゆえに空気が読めなくて、でもって早とちりが多いといい。
そんでもって保護者(シェイド)がいてくれるといい。
ウンディーネは頼れる姉御、面倒ごとで困った事も結構喜んで力になってあげる人。
そしてジンはそんなウンディーネに巻き込まれてしまうお人よしさん。
そんな彼らが好きです。
闇と月は傍目ラヴラヴだけれど、告白らしい告白は今までの話で書いてなかったので、きっとそんな事はなかったのだろうと今回のテーマ決定。
これを書いてて気づいたのですが、
これ以降、二人は両思いで自覚あるラヴラヴなんですよね?(今までを無自覚ラヴとすると)
って事はこれ以上にラヴな話しを書かなきゃならんという事ですよね…?
…すんません、そこまで考えてなかった。
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